享楽

叫の享楽のレビュー・感想・評価

(2006年製作の映画)
4.4
「私は死にました、だから皆さんも死んでください」という一見奇妙なロジックのポスターコピーに惹かれてしまい、黒沢清氏が監督なこともあって鑑賞。
まず今作、非常に精神分析的な狂気とオカルト的な狂気の境界線が曖昧であり、それが良さになっていて、もはや大々的に恐怖を煽られたのでストーリーのことなど置き去りにして語ってしまいたいぐらいになってしまう。
結果的に幻聴幻覚的な境地に振り切るかと思えばそうでもなく、オカルト的な境地にも達していた。つまり土地全体が最早呪われているという悟性的認識に至るのは、最期主人公の刑事が荒廃した街を一人彷徨う姿から明らかであろう。精神、の面から言えば最も安全地帯にいるであろう精神科医すらその登場の最後は取り乱したのだから。
今作の恐怖の煽り方は、言ってしまえば人間のシニフィアンの連鎖という、ある対象に含有されている—それも不可思議なそれが、別の関連物に転移する(例えば、主人公の刑事が夢で体験した、壁が割れて地縛霊が現れる((穴→割れ目→地縛霊〈恐怖の対象〉))ものからの第三の殺害者である女と主人公が出会う前の地割れのデジャブからの、そこから地縛霊が出てきてもおかしくないんじゃないかという連想ゆえの恐怖)ものであり、謂わばこの物同士の関連性ゆえの不気味なものへの誘いという恐怖がヤバいのだ。類似しているがゆえに恐怖を煽ってくる物はこうして無限に噴出し続け、最終的には紅色の物が全て恐怖の対象となるような、また水分の入った容れ物がすべてそれとなるような、全くすべてが不可知で不気味な対象へと、認識者が吸い取られてしまうような、ゆえに逃げたさが生じ、恐怖すれすれの笑いで見終えた。
享楽

享楽