mog

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのmogのレビュー・感想・評価

3.4
実に典型的アメリカの現代小説的道具立て筋立てだなという印象。

ジョナサン・サフラン・フォアのベストセラーはずっと気になってだけど読んでないところに、映画化されたということで先に映画を観てから読もうと思っていた(映画を楽しむなら絶対原作は後にした方が良いから。先に映画を観ていても原作は意外と楽しめるが、先に原作を読んでると映画を観た時の違和感をどうしても消し去れない。原作の作家のファンだったら小説を読む体験そのものの質を上げることを優先したいから映画を後にするけど)。

オスカー少年はとても聡明で魅力的に描かれてるんだけど原作だとどうなんだろう。映画だとほとんどアスペルガーには見えない。彼の喪失感・罪悪感・トラウマの根っこになっているのは電話を取れなかったという体験な訳だけど、それがトラウマになるキャラクター像とアスペルガー的要素がうまく結びつかないんだよなあ。映画はむしろオスカー少年の繊細さと聡明さが前にでてるから彼の心の動きとしてはあんまり違和感ないんだけど、でもだったらライナスの毛布みたいにずっとタンバリン持ってるような設定がむしろ邪魔。

ドレスデン爆撃のトラウマを持った祖父と911のに犠牲になる父、とか、父親とのつながりを保つために父親が残した鍵の鍵穴を探す、とか、口を聞けない間借り人の老人と一緒にNew York中のブラックという名前の人間を訪ねる、とか、、いやいいんだよ現代の寓話なんだよねきっと、わかるよ。でもなんだか筋立てがウェルメイド過ぎて頭で作った感満載で深みがないよね。いや原作読んでない状態(未だに小説読んでない)でこんなこというのはアンフェアというか、ひょっとして小説読めばまた全然違うのかもしれないけど、寓話を書きたいにしても例えばオースターの小説のような奥行きを感じない。

ただ作り物めいたフィクションだとは思うけど911という出来事の重さやリアリティを損なうような描き方ではないとは思う。村上春樹の神の子どもたちはみな踊るみたいなタッチというか。いやそうでもないか。父親の留守電とか微妙だしな。息子に何回もAre you there?って言わないよな。
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