葛西ロボ

この空の花 長岡花火物語の葛西ロボのレビュー・感想・評価

この空の花 長岡花火物語(2012年製作の映画)
4.8
 神戸朝日ホールの上映会で鑑賞。
 73歳で自主製作映画を撮り、長岡からフィルムを担いで全国行脚。そのエネルギッシュさは作品にも否応なく発揮され、ふつうに映画を観るつもりで座っていると初っ端から面食らい、ただならぬものを見せられるぞ……と身構える。が、受け止めきれるわけがなく、最後の方は身を任せて、魔術的なリアリズムの中に浸っている。濃密すぎる映像体験。ものすごいエネルギーの生命賛歌。
 政治とヒューマニズムというのは相性が悪いと思うんですけど、そこを完全に切り離す人も、べったりくっつけて考えたがる人も、何らかの感情を動かすことができるのが良い映画で、作り手に「意図」があったとしても、それは観る側にぶん投げられていて、それぞれの感じることに価値があると思うんですね。この映画も無茶苦茶な情報量の中で多少のバイアスはかかっていても押しつけがましさはなく、どちらかといえば訴えかける作りになっている。
 上映後の講演で監督自身の話も聞いたのですが、なかなか強烈でした。むしろ映画の方はフラットなのかとも思うくらい。
 メッセージ性というものを抜きにしても、ドキュメンタリーと舞台劇を組み合わせた、現実とフィクションの境目が無くなり、現世と幽世の境目が無くなり、観客と映画との境目が無くなるという大団円に向けた演出のドライブ感は、エンターテイメントとして圧倒的。視覚的にも一輪車のぬるぬるした動きを始めとして、舞台におけるアーティスティックな合成、テンポの良すぎるカット割り、空一面の花火など眼福に与ることができる。
 比べるような作品を思いつかないですけど、あえて挙げるとしたら「火垂るの墓」。同じように戦争の犠牲になった子どもが「なんでホタルすぐ死んでしまうん?」に対して、「この空の花」では「まだ戦争には間に合いますか!?」という異常事態。彼らの火は消えてないんですよ。人の命はホタルのように儚いもの。というのは、花火もパッと開いて消えるから同じなんですけど、この映画のスタッフロールの花火は消えても消えても次から次に打ち上がり続ける。そして一発一発がすでに消えた花火を呼び起こすように心の中で何度も何度もリフレインし続けるんですね。
 ただこれジブリ映画と違ってカルト映画の域に達しているので(と言いながらポニョとかは同じ匂いを感じる)、子どもよりは大人にしっかりと見てもらいたい作品です。