労働の意味を模索している青年(吉岡秀隆)が、古びた映画館を経営する中年男(西田敏行)に遭遇する。徳島県美馬市の脇町劇場(市指定文化財)を舞台にして、映画興行に携わる人間たちの悲喜を描いている、人情喜劇の第1弾。
未完となった「男はつらいよ」の第49作目を引き継いでいる作品。舞台設定は新規に書き下ろされているが、登場人物の配置に「男はつらいよ」の名残が垣間見られる。
本作に登場する興行主は「多くの人に映画を観てもらいたい」という気持ちを馳せている中年男。映画から人生経験を積んだつもりになっており、幼馴染(田中裕子)の気持ちを汲み取れないことに懊悩する。このあたりに、寅イズムの継承が感じられる。
終局に入ると、渥美清への追悼ムードに包まれるが、全体的に「シネコン以前の映画興行」への鎮魂的作品という印象。シネコンにおける完全入替制の1本立て興行では見えてこない、人間的情緒がセンチメンタリズム満点に描かれている。