夜明け前の青白い薄闇の中で繰り広げられる耽美なディストピア密室劇。ラース・フォン・トリアーの「メランコリア」と似ているようで対極にある作品。
妻子持ちのオッサンの平凡な日常が全編に渡ってダラダラと流れていくのかと思いきや、夜中に突如テレビから聞こえてくるのは核戦争勃発のアナウンス。日常から非日常への転落はあまりにもダイナミック。
その映像美も究極的で、人間の立ち位置まで計算しつくしたためか、もはや登場人物の動きは半ば不自然なほど。憔悴する女のスカートの襞とそこから伸びる脚の美しさはまるでビアズリーのドローイング。全てが繊細なガラス細工のような映画。