このレビューはネタバレを含みます
秋の夜長のお供として鑑賞。
アルパチーノ好きには堪らない。
彼が演じた元将校は盲目であるが、気難しく毒舌家でおまけに生きる意味を見出せず、空虚な日々を送っているにすぎなかった。
ひょんな事から奨学金で通う高校生チャールズと出会うが、その時も毒舌を浴びせ、終いには消え失せろと拒絶するほどである。
だが共にするうちに心通わせ、最後には窮地に陥った青年を救う見事なスピーチも魅せ、散々拒絶してきた家族とも打ち解け合い、生きる希望を見出す。
と簡単にあらすじを申し上げたが、脚本以上にこの映画を優れてものにさせているのは、他でもないアルパチーノの演技である。
見所として、
まずはその所作であろう。
事故により視力を失った彼は全く瞳を動かすことなく会話し、グラスや電話に触れるときの機微な仕草も盲目の方のそれである。デニーロといい、この時代の俳優は憑依的なまでの演技力を備えていて、それだけで作品に吸い込まれてしまう。
また、タンゴを踊るシーンでは相手役のドナ(演じるガブリエルアンウォーがとても美しく驚いた)をリードする腕前を披露しこちらも驚きであった。
さらに感謝祭のため祝宴をしていた実兄の家では、自身らを侮辱する甥に激昂するなど幾度となく、癇癪を起こす彼であったが、
‘計画’こと拳銃による自害を阻むチャールズとのシーンは壮絶であった。
視力を失った悲痛の叫びが「I'm in dark」という彼の台詞にも現れている。
誰からも必要とされていないと感じた彼は俺の人生は何処にあるとまで叫んでおり、孤独な退役軍人の苦しみを描いている点も特筆すべきである。
最後に。
名言が多く、枚挙にいとまがないが、
タンゴシーンにて、
自信がないからとタンゴを踊ることを渋る女性に対してアルパチーノが「足が絡まっても踊り続ければいい」といい、
チャールズを道連れに自害しようとするシーンでは、
どうやって生きていける?と問うアルパチーノに対してチャールズが「足が絡まっても踊り続けて」と諭す。
何か気づきを与えくれるのに年齢は関係なく、同様に友情にも関係ない。
長らく愛され続けてきたジャックダニエル、いや“ジョン・ダニエル”のような良さがこの映画にはある。
余計な感情で割ることなく、“ストレートで”観て欲しい。
余談ではあるが、チャールズの対局の学生として出演している若きフィリップシーモアホフマンが指輪物語シリーズのサムことショーンアスティンにしか見えなかった。