菩薩

セント・オブ・ウーマン/夢の香りの菩薩のレビュー・感想・評価

4.1
何故そうまで、過去の栄光にすがるのか。何故そうまで、傲慢で我儘なのか。何故そうまで、高圧的で自暴自棄なのか。一寸先は闇、二寸、三寸、どこまで歩いても、光など見えぬ世界、自らの過ちで自らを闇に包んでしまった絶望と呼ぶべき余生においては、生きる理由を探す事は難しく、死ぬ理由を手にする事は容易い。全ての望みを叶えたら終止符を打ってしまおう、手先は見えずとも、悲しくも身体に染み込んだその手癖は、30秒あれば彼を死の救いへと導く。悔いは、きっとある、だがそれ以上に叶わぬ夢がある、そんな現実にもう耐えられない、着慣れた軍服に身を纏い、「武器」に弾を込め、後は頭を撃ち抜くだけだ、やっと楽になれる…。そんな決断をあいつは邪魔をする、涙を流し、死ぬなら自分も殺せと叫ぶ、こいつはどうして、泣いているのだろう。この清廉潔白な若者の未来は、今偏屈な大人の手によって踏み躙られ様としている、仲間を売らなければ未来は無く、仲間を売れば彼の純粋な心は汚れてしまう。多くの若者を死に至らしめ、光を失い、そうまでして今日まで生きてきたのは何故か、今の自分に出来る事などあるだろうか、かつての英雄は強い決意と共に壇上に上がる。明日を生き抜くよりも、今日を死なない事、失った物を嘆くより、今ある物を誇る事、そして何より、微かな希望を捨てぬ事、誰かの「死ぬな!」に応える覚悟を持つ事。来年のクリスマスにまた会おう、そんな約束が、彼をまた死の淵から救うのだろう、その時彼の横には、新たな光が輝いているかもしれない。老兵は死なず只消え去るのみ、だがその日が来るのは、まだまだ先になりそうだ。
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