日下勉

一人息子の日下勉のレビュー・感想・評価

一人息子(1936年製作の映画)
3.7
信州の生糸工場で働く母が一人息子を苦労をして大学まで進学させ、東京で働く息子を訪ねてみると、その息子は夜学の教師として薄給で働き、長屋で妻と生まれたばかりの子供を抱え倹しい生活をしている。息子に期待をして進学させた母と期待に応えられない息子。お話しとしては、今から見るとありきたりなもので(普遍的とも言える)それほど新鮮味は無いけど、小津安二郎の絵作りの上手さ、絵画的構図はすでにみられて興味深い。
それに1936年(昭和11年)の風俗が見れるだけでも貴重。
青雲の志を抱いて上京した笠智衆が裏店でトンカツを揚げていたり、夜中屋台でラーメンを取り、「ラーメンは汁が旨いんです」と日守新一が母の飯田蝶子に言っていたり(後のお茶漬けの味で鶴田浩二が同じことを言っている)、空き地で少年たちが野球に興じていたり(日本でプロ野球のリーグ戦が始まったのがこの年)となかなか興味深い。
ちなみにこの年の2月には226事件が起こり、8月にはベルリンオリンピック、11月に日独伊防共協定が締結。次第に戦争の足音が近づいて来た頃。
5年後には太平洋戦争が始まるので、この物語の人物たちの今後を想像すると、いろいろと思うところはある。
日下勉

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