たく

一人息子のたくのレビュー・感想・評価

一人息子(1936年製作の映画)
3.8
小津安二郎監督の初トーキー作品。何だか怖かった。
「人生の悲劇の第一幕は親子になったことから始まっている」という不穏なテロップに始まり、貧乏に苦しんだ母親が将来の出世を託して幼少期に信州の片田舎から東京に送り出した一人息子の成人した現在に幻滅する話。

久々に息子を訪ねて上京した母親を待遇するために周囲からお金を借りてなんとかやりくりする息子が涙ぐましくて、上京した親が重荷になる構図は後の「東京物語」を思わせる。ドイツ映画に連れ出した母親が居眠りしちゃうのが何とも気まずく、時計の音が常にカチコチ鳴ってるのが都会の世知辛さを象徴してた。
出世できない息子の不甲斐なさを責める母親と、出世したくてもどうしょうもない時もあるんだと反論する息子。今でいう毒親みたいなことなんだけど、損得勘定のない優しい息子のある行動によって人情にほだされると同時に、現実を受け入れざるを得ないって感じのラストが虚しい余韻を残す。

飯田蝶子は何かの映画でぶっきらぼうな滑舌の良さに衝撃を覚えた役者で、「長屋紳士録」は主役だったけどやっぱり脇役が似合ってると思った。
笠智衆が若い先生役で登場するのが新鮮で、学のある先生が後にとんかつ屋になっちゃう皮肉を店の旗を裏から撮ることで表してたのが印象的。何も知らない赤ちゃんがスヤスヤ眠ってるのが何度も出てくるのが目に焼き付いて、何気ないショットを差しはさむ小津監督らしい演出は初期から確立してたんだね。
たく

たく