かなり悪いオヤジ

青いパパイヤの香りのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

青いパパイヤの香り(1993年製作の映画)
3.0
村上春樹の『ノルウェーの森』を映画化して、ハルキストの皆さんから総スカンを食ったトラン・アン・ユンの長篇デビュー作である。パリのスタジオにノスタルジックなベトナムの町を再現して撮影したらしいのだが、トラン・アン・ユン曰く、カメラをゆっくりと移動させる方法論などは、なんと日本の巨匠溝口健二をお手本にしたらしい。どうも日本文化にかなりのシンパシーを寄せている人らしいのだ。

農村から奉公に出された少女が、お金持ちの音楽家青年と逆玉婚するまでのお話しを、ほぼ屋内のセットだけで済ませている点が特徴だ。うぶな少女が庭先になっているパパイアの実を2つに割って、中の種を撫で回すシーンなどには、確かに何とも言えないエロスがただよっている。トラン・アン・ユンが狙ったのは、“エロいシーンぬきでエロスを描くこと”にあったのではないだろうか。まさに溝口十八番の演出方法なのである。

かわいらしい少女が奉公人を演じていた時はその演出方法がはまっていたが、後半トラン・アン・ユンの奥様が若作りをして奉公人を演じるようになってからは、せっかくの青きパパイアの香りに、熟れたドリアンの腐臭が混ざってきてしまっているのである。この奥様、トラン・アン・ユン作品には必ずといってでばってきているらしく、映画監督としての旦那の伸び代を逆にうばっているような気がしてならないのだが、どうだろう。