カラン

最高殊勲夫人のカランのレビュー・感想・評価

最高殊勲夫人(1959年製作の映画)
3.5
三原家には長男と次男がいて、父から受け継いだ中堅企業の三原商事を経営していた。長男が社長だが、社長秘書をしていた貧乏な野々宮家の長女が嫁入りすることになり、社長をコントロールして世界制覇を企んでいた。

映画の冒頭は野々宮家の次女が三原家の次男に嫁入りする結婚式で、その場で野々宮家の長女は三原家の三男と野々宮家の三女を結婚させ、三原商事を牛耳ろうと企むのであった。


☆クリシェ 

むっとするほど定型的な家父長制とそれに基づく家制度、またそれを利用するしたたかな女たちの処世術が描かれる。コメディだからこそ誇張されている1950年代後半の日本の習俗は、処世術の名のもとに生を消費する態度がビリー・ワイルダーの『アパートの鍵貸します』(1960)にそっくりである。ワイルダーの映画は会社の同僚たちに毎晩ラブホ代わりに自分のベッドを貸すし、自分が好きな女(シャリー・マクレーン)は自分のベッドで他の男との情事によって自分を喪失する。それに手を、いや、鍵を貸す男なのであるから、自己喪失に自己喪失が重なる。軽率なので笑うしかないし、笑うことはとりあえず幸せなので、なおさら軽率に生きるというライフスタイル。増村保造の場合はそれを描出することによって社会批判をするというのであろうか。

まずまず面白かったが、それは内容のためではなく、船越英二の挙動であったり、若尾文子の可愛さのゆえである。小学生の時であれば、本作や『アパートの鍵貸します』に、どきどきのときめきを感じたはずだが、今観るに、哀れである。


☆結婚式 

2回、冒頭と最後、行われるが、冒頭のほうは松と梅を飾った装花は立派であったが、式の撮影はあまりかな。大して面白くない挨拶の長舌鋒をやって、企みがあって暗躍する人々に譲ってしまうので、花嫁をフィーチャーしない。2回目はせっかく若尾さんがドレスを着るが、クストリッツァの『アンダーグラウンド』(1995)のようには楽しくない。ジャケ写にもなっているお茶目顔の2人のスティルが精いっぱい。


☆キスのキス

船越英二は嫁に頭が上がらず、浮気して、水商売の女(八潮悠子)と鬼怒川温泉に。相手の水商売の女のことを、ぽん吉、と呼ぶ。で、キスをする。2回か3回。演技の上でもキスしていない。5cmくらい離れているんじゃないだろうか。肩ごしのショットであるので、口元が映っていないのだが、角度がおかしく、キスしているように見えない。

増村保造は濡場を撮るが、彼の映画のスクリーンには濡場がない。濡場の演技は映っているが、濡場は映らない。濡場をやらないがやったことにするくらいなら、最初からやらなければいいのに。おかしな映画監督である。誰かに頼まれているのだろうか?私が観た増村保造の映画はどれも濡場の演技を演技させてたもの。『青空娘』(1957)も演技の演技であったのだろうか、ショットを思い出せない。


☆恋人たちの街角

丸の内だろうか。ランチの後の時間帯。大勢の人が行き交う通りの角で、若尾さんが建物の角に背を預けている。人物の可動範囲は270度。270度を全部使って歩み去る男は、角に立つ若尾さんへの眼差しを遮りながら、画面の奥に消えていく。若尾さんの眼差しが去ろうとする男を追う。2人は互いの想いを知らないが、兄嫁=姉の企てに反抗するために、絶対に結婚しない約束を既にしている。若尾さんは遠ざかる男を見て、反対方向に爽やかに回転して、その場を後にする。ロマンチックというのは、やはりダイナミズムに宿るものである。


DVD。画質と音質は良い。
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