猫脳髄

丑三つの村の猫脳髄のレビュー・感想・評価

丑三つの村(1983年製作の映画)
3.7
日活ロマンポルノ出身の田中登が、昭和の大量殺人事件"津山三十人殺し"を材にとった(※1)和製スラッシャー・サスペンス。同じ事件に材をとった「八つ墓村」(1977、1951)が先行するが、本作は一貫して犯人である主人公・古尾谷雅人の視点で構成する。

兵士として出征することにあこがれていた村の秀才である古尾谷が、結核への感染が発覚したことで出征はおろか、村人からも忌避されるようになる。村の因習である夜這いを喜んでいた女たち(五月みどり、池波志乃)や、相思相愛だった娘(田中美佐子)からも距離を置かれ、自警団にも目をつけられた古尾谷は、ひそかに村人たちへの復讐を企んでいた…という筋書き。

散弾銃で犠牲者の頭部を爆発させるという人体破壊表現(※2)は、わが国のスラッシャー映画史でも最初期の作例ではないか。女優たちの大胆な濡れ場と言い、確かに日活バイオレンス・ポルノのしるしが刻印されている。事件の現場にもなる村のオープンセットは77年版の「八つ墓村」でも使用されたものと言う。

主人公の挫折と変容、大量殺人に至るプロセスに、村の因習を絡めて丹念にたどる脚本もよい。元もとはナイーヴな好青年だった古尾谷が、襲撃計画を立てる際に広げた手書きの地図に「犬丸継男の戦場」と書きつけられたシーンには、もはや引っ込みがつかない狂気の発露を見た気がする。繊細さと狂気が同居し、登場だけで「こいつは気が狂うとる」と確信する古尾谷の演技も素晴らしい。

※1 西村望による原作がある
※2 ウィリアム・ラスティグ「マニアック」(1980、日本公開1982)のショットガン・シーンを参考にしたのではないか
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