とうがらし

トスカーナの贋作のとうがらしのレビュー・感想・評価

トスカーナの贋作(2010年製作の映画)
3.3
2010年カンヌ国際映画祭 女優賞(ジュリエット・ビノシュ) 受賞作

上質な大人の痴話喧嘩。
偽り(贋作)と真実(オリジナル)。
何の根拠をもってモノ、コトを、その二つに振り分けているのか考えさせる話。

無造作に置かれた鏡、
撮影を待つ花嫁、
仲睦まじい老夫婦、
教会の鐘など。

背景がメインになり、メインが背景になる”フレーム内フレーム”
これにより、奥に隠されていた真意がふわっと立ち上る。
端役や小道具、大道具の入れ方はさすが。
キアロスタミ監督が好きな、〇〇のフリをするも健在。

ただし、監督作品の中では、キアロスタミ色が弱く、2人の演技力で場を持たせている感じは否めない。
著名人のキャスティングが製作費を圧迫したのか、場面転換は少なく、屋外での人の動線も少なかった。
調べてみると、製作費は日本円で5億。
イランの監督が、海外ロケでかさむからという点もあるが、ここまで地味な作品に、5億円の製作費をかけられるのは邦画ではなかなかない。
とてもうらやましい制作環境。
いやむしろ、日本の制作環境が厳しく、貧し過ぎるのかもしれない。
10~20代が観なさそうな内容では、資金回収(需要)があまり見込めず、この場合は大体、一人や二人はメインキャストに人気の若手俳優を入れようとする。
彼らが広告塔になるから。
それができないと、背中を押してくれるプロデューサーも少なく、製作費の捻出が難しい。
そんな日本の現状では、成長途上の主人公が物語の映画が増えるのは、ある意味で必然ともいえる。
物価が上昇していく中、賃金は上がらない。
経済大国とは思えない、見えない貧困が重くのしかかる。
人件費が低く抑えざるを得ない日本の映画製作はどうにかならないものだろうか。
(脱線してすみません)

ジュリエット・ビノシュは前作「シーリーン」にチョイ役で出演。
その際、監督が本作のプロットを逸話のように話して、作り話だと種明かしするまで彼女は信じたという。
嘘に真実味のある監督のリアリティが、ジュリエット・ビノシュを本作出演へと惹きつけた。
実は、相手役はロバート・デ・ニーロという構想もあったようだ。
残念ながらそれは破談。
演技経験のないウィリアム・シメルが起用された。
彼はイギリスオペラ界を代表するオペラ歌手。
ジュリエット・ビノシュの演技と対等に渡り合っているのには驚く。
世界的に秀でた才能を持つ人は、未経験の分野でも物事の要点をつかんで、自分のものにするフリがうまいのかもしれない。
監督がどのようにしてオペラ歌手とつながりを持ち、キャスティングに至ったのかその経緯が気になる。
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