chsy

トスカーナの贋作のchsyのレビュー・感想・評価

トスカーナの贋作(2010年製作の映画)
-
キアロスタミ監督とは「ともだちのうちはどこ」で出会い、それが初めてのイスラム圏の映画で、長く個人的好きな映画ベスト10に入る名作と信じてきた。
何時頃からか新作を追うこともなくなっていた所に今年の訃報。
いくつか選んでDVD鑑賞した中で、この作品は印象深い。
監督にしては珍しく男女の問題を正面から描いた今作、たった2~3時間、トスカーナの小さな町の中で交わされる会話が主な内容だ。
その会話というのが仏語、伊語、英語の三か国語ミックス。
スタートは初対面の設定が、レストランの女将に夫婦と間違われそのまま夫婦設定の会話を続けてゆく。そのうち観る側も以前からの関係なのか?と思うようになり…。
深い関係だからできた会話とも取れるし、芝居の上での会話だからこそあからさまに本音を言い合えた、とも言える。なにが本当か分からなくなるから「贋作」…

それにしても、男性側が逃げ腰になり守りに入って行くのに対し、ジュリエットビノシュ演じる女性がどんどん大胆になって行くのにはハラハラを通り越して痛みさえ感じた。そんな「イタイ」行動(=自分の恥部を晒す)が出来てしまう所がこの年齢の女性の強さで、それに対峙できない男の弱さ、いや繊細な内面との対比。これって万国共通なんだな…
しかし一見女性が強いように見えて決定権は男性が握っている。
男は社会的な上下関係に敏感な分、自分の本心を言わない駆け引きが上手なのかも。いや、ちゃんと先を読んで時間をかけて思考している、と言うことにしておこう。(笑)

まあ、でも判断や決定には精神的負荷が加わる。そこ、上手に導くのが女性の勤めなのかな…。上手にできる人少ないけど。それが出来るのがイイ女なのか。
それと比べると今回のビノッシュさんはどこにでもいる田舎の中年女の典型であり、それもまた愛すべきキャラクターなんでしょう。
結論を出さない曖昧な終わり方がさすがと思わせる。
それにしても、あゝトスカーナ、トスカーナ、トスカーナ・・・
(2016)
chsy

chsy