つのつの

隣る人のつのつののレビュー・感想・評価

隣る人(2011年製作の映画)
4.9
家庭の事情がどれほど複雑でも、育ててくれる血縁者が周りにいなくとも、
誰か一人でも「無償の愛」を与えてくれる存在があれば子供は生きていける。
「どんなあなたでも好き」
「一生死なないから、一生一緒にいよう」という言葉を授けてくれる人がいることがどれほど尊いことか。
児童養護施設に通っていた経験は僕にはないけれど、この映画に映る子供達と保育士さんの関係を見ていると、自分が辿ってきた人生のことを思い出さずにはいられなかった。
印象的なのは、子供達との辛い別れを迫られた時保育士さんは妙にサバサバしているところ。
彼女たちが抱える「担当する子供に芽生える本気の愛情」と、とはいえ「仕事だから仕方がない」という感情のせめぎ合いが垣間見れた気がする。
だからこそ、ラストシーンで初めて涙を見せるマリコさんの姿を見てにも涙腺が決壊した。
あの瞬間に集大された彼女とむっちゃんの関係の美しさよ。

この映画の優れている点は、誰かを断罪してはいない点。
実の子供を愛せない、実の子供とうまく関係を育めず児童養護施設に預けてしまう人を責めるわけじゃない。
あるいは、養護施設の人だって生意気な子供に「こんちくしょう」と思っている事実をさらりと見せてしまう。
それでも彼、彼女達の少しの感情の機微や善意に至福の喜びを感じることができるのならば、その人は子供達にとってれっきとした「隣る人」なのだ。

痛ましい虐待事件が後をたたない今こそ、子供のことも親のことも考えを巡らせることができるこの大傑作を見れて良かったと心から思う。
つのつの

つのつの