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ゴールデン・エイティーズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ゴールデン・エイティーズ(1986年製作の映画)
4.3
 レ・アールのフォーラムを思わせる地下ブティック街。カラフルな衣装を着こんだ女たちが軽やかに踊る。『ジャンヌ・ディエルマン』や『一晩中』、『私、あなた、彼、彼女』ら極めてパーソナルで内省的な作品群とは打って変わった華麗なるミュージカル・コメディ映画の幕開けである。ジャンヌ(デルフィーヌ・セイリグ)とシュワルツ(シャルル・デネール)の夫妻は高級ブティックを経営し、商売は繁盛。息子ロベール(ニコラ・トロン)はプレイボーイで、隣で美容室を経営するリリ(ファニー・コタンソン)に夢中。その向いのシルヴィ(ミリアム・ボワイエ)が経営するカフェには常連客が集まる。ロベールはセクシーなリリを思っているが、彼のライバルとなる家主のギャング、ムッシュ・ジャン(ジャン・フランソワ・バルメール)は独占欲が強く、しばしばロベールを威嚇する。一方、美容院で働くマド(リオ)はロベールに夢中。そんな頃、ジャンヌのもとに30年前のかつての恋人、アメリカ人のイーライ(ジョン・ベリー)が現われる。入れ替わり立ち替わり、出たり入ったりする忙しない登場人物たちの動きはまさに喜劇的で、息子の幸福な結婚を願う彼女の元にはかつて生涯を誓った相手が不意に現れるのだ。

 男も女もみんな恋に恋焦がれる。新しい出会いも古い出会いも含めて。ショッピング・モールというロケーションは恋の縮図であり、リズミカルなメロドラマはPOPに弾ける。彼女たちはみな店主であり店員でありながら、恋の縮図というショーケースの中に入れられたエネルギッシュな演者でもあり、踊り子でもある。微かな視線の交差に心ときめく者がいれば、海の向こうのカナダから来る手紙を心待ちにして今日を生きる女性もいる。そうかと思えばロベールの心を捉えられているか心配で仕方なくなるピュアな女性もいる。海の向こうのThe Smithsやネオアコが席巻した時代。70年代よりもよりレンジの広い派手な音楽が持て囃された時代。正に黄金の80年代の胸高鳴る様な音楽と歌が80年代にいま再びジャンル映画としてミュージカルを再現する。優柔不断な放蕩息子の登場や戦争を生き延びた元カレの登場、そして政略結婚を承諾させようと計算違いな演説を打つ父の描写に、ダメ男ばかりの世界を登場させてばかりだった在りし日のシャンタル・アケルマンを想う。奇しくも今作は『ジャンヌ・ディエルマン』のジャンヌと同じ名前で奇妙な符号を見せる。主演も『ジャンヌ・ディエルマン』と同じデルフィーヌ・セイリグだ。あの頃のミュージカルとは決定的に違うものの、情念はアステア時代の往年のミュージカルに少しも引けを取らない。異端でありながら、心底とち狂った奇妙な傑作!!
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