よぼよぼのおじいさん

鳥のよぼよぼのおじいさんのレビュー・感想・評価

(1963年製作の映画)
4.4
人間は鳥籠に閉じ込められ、
鳥は大空を舞い、高らかに歌う





本当の恐怖は、但だ静寂によってのみ齎され得る、無言のシーンほど、サスペンス・タッチが冴え渡る

何よりも音楽がないことが素晴らしい
リアリティのある恐怖、本当の恐怖とは何か
一方で電子音を基調としたノイズとも呼べるサウンド演出によっていかにも鳥たちが”death sentence”を囁いているのかとさえ感じられる



映像作品に度々用いられる、子供の(ような)歌声とスリリングな(時にグロテスクな)光景の組み合わせに対して私は屡々甘美な陶酔に浸ってしまうことがある
本作でも、児童によってスコットランド民謡が唄われる中、背後のジャングルジムには一羽また一羽とカラスが群がり煙草を吸うヘドレンが気づいた時にはもう真っ黒な塊となって佇んでいるシーンがまさにその組み合わせにあたる
あの場面は最早映画鑑賞ではなく恐怖体験にといえるほど、鑑賞者の感情を見事に誘導している、美しい

カモメによる襲撃後、食堂の奥に避難した住民は壁沿いにずらっと並びメラニーとミッチを真っ直ぐに見据え
そして子の母が堰を切ったように
“Who are you? What are you? Where did you come from? I think you’re the cause of all this. I think you’re evil. Evil!”
と罵倒するに従い、カメラ方向に近寄り最終的にクローズアップとなり、ショックのあまり涙を流したまま茫然とするメラニーの切り返しアップショットを挟みつつ、ふんだんに照明を当てられた母親の恐怖に怯えた表情が画面いっぱいに映される、という一連のシーンは何よりも「映像として」激しく脳裏に刻まれる
あの瞬間、メラニーとミッチはもう住民を頼ることはできないことを悟る