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冬物語のclaireのレビュー・感想・評価

冬物語(1992年製作の映画)
5.0
プラトンもパスカルも(自戒を込めて、ドゥルーズもライプニッツもフッサールも)究極的には読む必要はない。世界を知覚できることと、哲学書を読んでいること、もっと広く、知識があることは無関係であり、むしろ「頭でっかち」な男はその博識さゆえに、世界がそもそもどうなっているかという本来性から盲目的に閉ざされる。
大聖堂で音源の特定ができない不自然なメロディは、シェイクスピア「冬物語」の演劇で反復される。そのときカメラは「舞台」→「身を乗り出す女」→「舞台」→「彼女の涙」と、舞台上と客席を往復する。愛、神秘、芸術の言語化不可能な強度に感染(ミメーシス)してしまう女とは対照的に、男はいつまでも言語に閉ざされる。
女は男に、彼女自身が感じ取った世界をどうにか言葉によって表現しようとする。すると男は、それは誰々によるとこういうことだ、と説明する。テキスト至上主義の自閉性とインテリの愚かさは、彼女から発せられる「あなたは本が生きがいなの。愛のささやきにも出典を探し出しかねない。あなたには活字が真実。」という台詞において、全てが明らかだ。システムの外に開かれた感受性によって女は世界という奇跡へと必然的に開かれる。大傑作。
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