みおこし

チャップリンの殺人狂時代のみおこしのレビュー・感想・評価

チャップリンの殺人狂時代(1947年製作の映画)
3.7
あの放浪紳士の格好をチャップリンが初めて脱して挑んだ意欲作。コメディなんですが、観終わった後のあのずっしり感。深いテーマ性を観やすく調理できるのは、巨匠だからなせる技だなと改めてチャップリンの偉大さを痛感...!

家族を養う金を工面するべく、女性たちをターゲットに殺人を続ける男アンリ・ヴェルドゥ。はじめのうちはうまく行っていたものの、いつしか犯行はエスカレートし...。

一見すれば猟奇的なシリアルキラーの男が、実は家庭や守るべき存在のために止むを得ず殺人を繰り返している悲劇の主人公とも取れるこの矛盾。
そして、最後のあまりにも有名なセリフ、「一人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む。数が(殺人を)神聖化する」という一言に集約された、人を殺めるという行為が孕む世の中の矛盾。
チャップリン流にアレンジされたこれらの矛盾に、思わずラストは「うーん」と唸ってしまう衝撃的な問題作でした。戦後間もないこの時代に本作を世に送り出したチャップリンの野心と勇気たるや...!
原案はかの有名なオーソン・ウェルズによる企画、実際にいた殺人犯がモデルになっているんだとか。

随所にチャップリンらしい笑いは散りばめられているし、悪運に悪運が重なりなかなかターゲットを殺せなかったり...などのブラックユーモアもありつつ。
でもチャップリン作品の中ではある意味最も過激なテーマの一本で、他とは明らかに毛色が違うように感じられました。アンリが刑務所に収容されてからのシーンが名言の連続、当時の世相を容赦なくぶった斬る深いセリフの数々に唸ること間違いなし。
みおこし

みおこし