KUBO

人情紙風船のKUBOのレビュー・感想・評価

人情紙風船(1937年製作の映画)
3.6
私の大好きな山下達郎さんがゲストでしゃべるというので、日本映画専門チャンネルで放送された『人生紙風船』という古〜い邦画を鑑賞。

昭和12年の映画ということで、亡くなった父母が生まれた頃の作品。

江戸時代なんだろうな、貧乏長屋に暮らす人々の人間模様を描いている。

仕官の口を求めて、亡き父の知り合いだった「毛利様」になんとか取り入ろうと頭を下げ続ける浪人「海野又十郎」(河原崎長十郎)。

町を牛耳るヤクザに楯突きながら、闇で賭場を開く「髪結新三」(中村翫右衛門)。

親の決めた婚礼が嫌で、番頭との成らぬ恋に身を焦がす大棚のひとり娘「お駒」(霧立のぼる)。

長屋の住人たちがそれぞれの人生を送る群像劇で、ひとつの筋が通ったストーリーはない。笑いもあり、ある程度の騒動も起きるが、基本誰もが叶わぬ想いを抱えながら、我慢の日々を送っている。

戦前のこんな時期に、こんなフランス映画みたいなアートな映画が作られていたんだ! 昔の日本映画って、例えば時代劇でも勧善懲悪のチャンバラ劇みたいな印象なんだけど、この時代にこんな「正義」とか「勝ち負け」とか関係ないアートな作品がどう受け入れられたんだろう? 「キネマ旬報」みたいな評論はともかく、一般大衆は「つまんね〜映画だなぁ」とか怒って出てくる人とかいたんじゃないかなぁ?

最後まで、誰も願いは叶わないし、それどころか、考えられうる最悪の感じで終わる。

誰かが首を括った夜、通夜だか祭りだかわからない大騒ぎの長屋から始まった本作は、物語の終わりでまた誰かが死んで、野次馬のように人々が集まってきて終わる。

水路に転がって落ちていく紙風船は、儚い人生を象徴してるんだろう。『人情紙風船』ってタイトルは、結構な皮肉なんだね。

好きなタイプの映画じゃないけど、こんな大昔に、こんな繊細な芸術作品が作られていたことにちょっとびっくり! とりあえず見てみてよかった。
KUBO

KUBO