人情紙風船の作品情報・感想・評価

「人情紙風船」に投稿された感想・評価

滝和也

滝和也の感想・評価

3.9
流れる様な演出と
何とも言えない厭世観
で紡がれる
江戸長屋哀歌(エレジー)

これが戦前の作品とは
思えない…。

「人情紙風船」

僅か30歳にして戦地に散った天才、山中貞雄監督が世に残した最後の作品。長屋ものと呼ばれた江戸情緒を活かした作品の中でも傑作と呼ばれ、数々の邦画ベストに選ばれた戦前の傑作です。

堀切長屋に住む髪結いの新佐と落ちぶれた侍海野又十郎を肝にして、彼らに関わる長屋の住人たち、大家、そしてヤクザ、商人、又十郎が仕官を頼む武士と市井に生きる江戸庶民を描いた作品。

二人のストーリーが絡み合い、何とも言えない可笑しさや、意気地、そして哀れを流れるような演出で淡々と見せていく。江戸の街、人、そして長屋の奥行きのあるオープンセット、そして逆光を活かした画作りとさり気なく、季節感ある江戸情緒の息遣いを感じさせてくれますね。

てっきり、長屋ものと聞いて熊さんはっつぁんの喜劇みたいなものと思い込み、みてしまったのでその厭世観や死生観を活かした哀れな話に驚きがありました。オープニングの水の流れから繋がるラストの掘割の紙風船に人の世の無情を感じない方はいないでしょう…(T_T)

江戸庶民のイキを感じさせる髪結いの新佐役、中村翫右衛門の演技が色気があって素晴らしい。ラストシークエンスの所作の美しさ、台詞は天下一品。落ちぶれた武士役河原崎長十郎もその後のこの手の役の手本になっているかのような感じで真面目ながら、不器用過ぎる味が出てましたね。騒動が起きる長屋の大家も欲張りながら、江戸っ子のイキを感じる辺りが落語にでてきそうなキャラで好きですわ(笑)また出てくる方みなさん巧いし、テンポもあった台詞の掛け合い。調べたら皆さん前進座の俳優らしく、息が合っているのも分かりますね(^^)

この何とも言えない哀れで滑稽なお話が戦前に見事な演出と共に撮られていたことは驚きですね。邦画はクラシックの方が遥かに味がある気がします。また同年代の他国の作品と比べても遜色もない。山中貞雄監督作品は丹下左膳百萬両の壺が有名なので、こちらも見たくなりました(^^)
Ryotal

Ryotalの感想・評価

4.2
豊後又十郎は町の長屋の一室で妻のお滝と共に暮らしている。ある日、父が仕えていたという毛利と偶然出会い、父からの手紙を渡そうとするも、断られてしまう。毛利に話を聞いてもらおうとするも、煙たがられ、挙げ句の果ては暴力まで振るわれる。

裕福ではないが、町の長屋には人情が溢れている。しかし、一度町に出てみると非情な仕打ちを受ける。父が出世に一役買った毛利は、父の手紙さえ受け取ろうとしないし、白子屋の店主らは、薬屋の若い者たちを連れ込んで暴力を振る。新三郎はその非情な世界に抵抗を見せる。その一件に関与したからと、又十郎の悪い噂が広がり、お滝の耳にも入る。そして、結末へ。
情と非情が描かれるが、その世界で生きる人間がいかに儚い存在かを痛感されられる。誰も見ない側溝をゆっくりと流れてしまうように、人間の一生は儚いが美しい。
tanzi

tanziの感想・評価

4.7
人情紙風船
1937年の日本映画。ここ数年で一番衝撃的だった作品。理由はふたつ。

人の営みは善悪や貧富権力の有無など二元的なものでは割り切れぬという真っ当な話を、無駄な台詞場面もなくたった86分で優しく切なく描き切った事。

そしてそれを28歳という年齢で監督した人がいたという当時の日本の成熟度。
ひでG

ひでGの感想・評価

4.2
アベンジャーズから山中貞雄へ
我ながらすごい振り幅!

これぞ、知る人ぞ知る、彗星の如く現れ、去っていった若き天才映画作家山中貞雄代表作にして遺作!

20代で亡くなり、現存するフィルムはごく僅か。

ずっと撮り続けることができたら、小津、黒沢、溝口と並ぶ巨匠になっていたと言われる幻の作家。

高校生で見た時はその凄さが全く分からなかったけど、改めて観た今回、衝撃!を受けました!

脚本も、演出も、カメラも、テーマも、演技も全ての部分で最高級のクオリティー!

それが90分弱で全部詰め込んでいる!

すごい!凄過ぎる!

江戸の貧しい長屋。一人の浪人が首をくくったとたなご達が騒いでいる。
大家さんに供養の為、通夜で酒を出せと詰め寄るたなご達。

ここらへんの軽い会話はまるで、NHKの
「落語をドラマにするやつ」みたい。

軽い人情ものかと思って気軽に観ている観客に、ちょっとずつ主人公二人のエピソードを挟み込んで、ギュッと凝縮されていく、この巧みさ。

口八丁で長屋のリーダ的存在の新三は、賭博を開いて、地元のヤクザに追われている。

長屋に住む浪人、海野又十郎は仕官の口を探してるが、取り入っも貰えない。

そんなふたりの事情が雨の縁日に一気に加速する。

落語のような人情話がギリシア神話のように動き出す!

このギアーの切り替えの妙、数々の名画達が成し遂げてきた極み

この2人を演じる河原崎長十郎と中村翫右衞門の演技がまたすごい!多分歌舞伎で基礎ができている役者さんだからだと思う。
こんなに昔のフィルムなのに、セリフが聞き取りやすいこと!

長屋の長方形のフォルムに人物を有機的に配置する構図。

紙風船や傘の見せ方、物語が大きく動く雨のシーンを見せるまでのちょっとずつの天候の変化の描写。

もちろん。長屋の人々の会話、特に不適切な表現多発?の視覚障がい者の方のやりとり?などライトな部分もしっかり配慮されている。

そして、今までチラッとしか出されていなかった作品のテーマに集結していく。

2人の立場の違い。地位ってなんなんだろうって、いうところまで、持っていく
この虚無感、

映画がメビウスの輪のように最初と最後が繋がっていく!

これは、日本映画史上に残る一本ですよ!
temmacho

temmachoの感想・評価

3.8
仕官のアテもない長屋住まいの貧乏浪人と長屋隣の遊び人の博打打ちとの不思議な縁と顛末の物語。

「髪結新三」という歌舞伎の演目をベースに江戸町人の風俗と武家社会の生き難さを描いてます。

哀れ。
映画男

映画男の感想・評価

3.5
随分としみったれた人情劇やな。傑作とは思わんけど圧倒的に名作やわ。語り継がれるだけありますわ。この監督、ずっと撮り続けてたら溝口越えてたと思います。人情紙風船が山中貞雄の遺作とはチト、サビシイ。
c5

c5の感想・評価

4.0
傑作。
日本のクラシック映画を数多く観てきたがここまで古臭さを感じなかったのは初めてかもしれない。
予想のつかない展開にぐいぐいと引っ張られていく。
心情をセリフで説明したりしない。表情で、仕草で、道具で雄弁に語りかけてくる。これこそ小説にはない映画の魅せ方である。
終わり方は、切ない。あの終わり方は大好物だ。

「山中貞雄」
多くの人が名前も知らないだろう。私もついこの前まで知らなかった。しかし、観ないで人生を終えるのは勿体無い。そう思えた。本作は28歳で戦病死した山中貞雄の遺作でもある。封切り当日に赤紙が届いたらしい。
え

えの感想・評価

3.9
昔の人はいまよりもずっと、生活のなかで、覚悟とか信念が強かったんだろうなと感じる、もしかしたらいまを生きる人たちも気持ちは同じかもしれないけれど、それが見えやすいというか

監督はこの映画が封切られたその日に召集令状を受け取ったという事実までを噛み締める、
三四郎

三四郎の感想・評価

3.0
山中貞雄監督の遺作にして時代劇の傑作と言われる作品。
江戸の貧乏長屋に暮らす人々、彼らの愉快なやりとり、どんちゃん騒ぎ、野次馬根性、陰口、噂をさらりと描いている。
浪人又十郎の朴訥さに歯がゆさを感じ、新三に江戸っ子の粋を感じた。
驚くほど面白かった、と、まず一言。

日本映画の歴史に名を刻むこの映画がどんなものかと思い鑑賞したが、

悲哀漂う数々の人間模様をユーモアを交えながら巧みにまとめ上げ、映像や構図にも立体感があり、映画の節々にインサートされる紙風船の印象の強さもあり、鑑賞後の余韻もジワリも心に重く残った。

物語の最後を予測させない脚本や構成も凄いと思った。

芸術映画だと思い鑑賞したが、娯楽映画としても傑作。
>|