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散り行く花の南のレビュー・感想・評価

散り行く花(1919年製作の映画)
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度重なる親父のDVで心がすっかり死んでしまった女の子と、

故郷を捨ててロンドンに来たものの夢破れた中国人青年。

2人の不幸な人物による儚いラブロマンスが『散りゆく花』です。

『國民の創生』や『イントレランス』を始めとして壮大なスケールでケレン味全開の大作で著名なグリフィスですが、

今作は舞台をロンドンの片隅に限定し、かつ2人の人間関係だけに焦点を絞った小さな恋物語。

背中を丸めてヨチヨチ何かに怯えるような歩き方、

他人の顔色をうかがう上目遣いなど、

不幸のどん底にある少女をリリアン・ギッシュが好演しています。

可憐で、壊れやすく、弱い、

というステレオタイプな少女像には、

現代であれば批判が集まるかも知れません。

実際、女性の社会的進出が目覚ましくなり始めるのは、『散りゆく花』が作られた1910年代の末頃から。

第一次世界大戦が終わり、それまで出征中の男たちに代わって日々の仕事をこなしてきた女性たちが「私たちにも権利を!」と叫び始め、それが受け入れたのです。

女性参政権の実現はイギリスで1918年、アメリカ合衆国憲法で1919年。

そして1920年代の好景気の中で、「フラッパー」と呼ばれる自由奔放な女性たちがアメリカ文化を賑わし始めます。

1919年に作られた『散りゆく花』は、

「理不尽な暴力に無抵抗で儚い」

ことが美徳とされた女性像が散りゆく姿を図らずも捉えた作品のようにも思えます。


※終盤には『シャイニング』の有名シーンの引用元とおぼしきシーンも(そのまんま)
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