Jeffrey

テルマ&ルイーズのJeffreyのレビュー・感想・評価

テルマ&ルイーズ(1991年製作の映画)
5.0
「テルマ&ルイーズ」

〜最初に一言、リドリー・スコットの最高傑作だと思ってる。これほどまでにウーマン・パワー炸裂のロード・ムービーを見たことがない。デニス・ホッパーの「イージー・ライダー」が男と男の道行を描いた作品なら、本作は女と女の飛翔を描いた正に女たちのルネッサンス映画で、野生の力を剥き出した西部の風景がなんとも印象深く、66年型サンダーバード・カブリオーレで現れる女達の魅力がたまらない〜

冒頭、ここはアメリカ中西部アーカンソー州の小さな町。2人の女が小旅行に出る。立ち寄ったバーでレイプ事件発生、銃で胸を貫く、男死亡、逃避行の開始。途中で出会ったヒッチハイカー、恋人、警察官、ダメ夫、卑劣トラック野郎。今、4つの州アリゾナへ…本作は2016年にアメリカ国立フィルム登録簿に追加されたリドリー・スコットが1991年(私の生まれ年)に監督した私の好きな映画の1本で、このたびBDに、久々に鑑賞したけどやっぱりウーマン・バイオレンスは最高である。スコットと言えば「エイリアン」「ブレードランナー」「ブラック・ホークダウン」など色々と好きな作品はあるが、この作品もかなり上位に来る。そもそも脚本家のカーリー・クーリは本作で見事アカデミー賞で最優秀脚本賞を受賞している。そして主演のスーザン・サランドンとジーナ・デイビスの素晴らしい共演に、ハーヴェイ・カイテルの安定感ある脇役、若き日のブラッド・ピットの目の保養マイケル・マドセンなど最高である。確か、まだ無名だったジョージ・クルーニーがブラッド・ピットの役のオーディションに来ていたとか…後に「オーシャンズ11」で共演しているけど。

さて、物語はアメリカ中西部アーカンソー州。その小さな町に住むテルマは、子供のいない専業主婦。身勝手な夫ダリルとの生活は決して満たされたものではなかったが、さりとして依存心の強い彼女に今以上の生活を望むべくもない。一方テルマの高校時代からの親友ルイーズはウェイトレスをして生活費を稼ぎ、独身生活をエンジョイしていた。彼女にはミュージシャンの恋人ジミーがいたが、いつまでも煮え切らない態度の彼に、ルイーズは微かな苛立ちを覚えていた。そんなふたりがある週末、旅行に出かけることになった。テルマにとっては、夫への密かな反抗も込めた気晴らしのバケーション。ルイーズにとっては、仕事の疲れを癒すための休暇旅行。2人は、荷物をルイーズ自慢の66年型Tバードに積み込むと、退屈な日常に別れをつげ、陽光のドライブに繰り出した。

その時、ルイーズはテルマに護身用の銃を預ける。テルマはそれを無造作に、クラブ・コンパートメントの中に放り込んだ。夕暮れ時、食事を取ろうと立ち寄ったカントリー・バーで、事件は起こった。マネージャーのハーランに乗せられ悪酔いしたテルマが、ルイーズが目を離した隙に姿を消したのだ。行方を追って駐車場へ飛び出したルイーズの耳に、ハーランに犯されかかって泣きじゃくるテルマの声が飛び込んできた。とっさのルイーズは男のこめかみに拳銃を突きつける。彼はテルマを解放したが、その場を去ろうとした2人に、俺のをシャブリなと罵声を浴びせかけてきた。間髪を入れず、闇の中に銃声が轟く。逆上したルイーズが引き金を引いたのだ。弾丸は見事にハーランの心臓を貫き、慌てふためく2人は夢中で車を急発進させた。

こうして、女同士の楽しかるべき週末旅行は、一転してあてのない逃避行と化した。あり金は41ドル。これではとても逃げのびることはできない。仕方なく、ルイーズはジミーに電話で助けを求めた。理由は言えないの。でもお金が必要なの。私の貯金と同じ額の6600ドルを今すぐ送って。切羽詰まった恋人の口調にただならぬものを感じた彼は、オクラホマシティの指定場所へ送金を約束した。かたやテルマも夫に電話するが、受話器の向こうに現れたダリルは、妻の無断外泊を一方的に責めるばかり。すでに、メキシコへ逃げると心を決めたルイーズに同意しかねていたテルマだったが、相変わらずの夫の冷たい態度に腹が決まった。メキシコまで、あとどのくらい?テルマの問いかけに思わずルイーズ頬も緩む。事件以来、険悪になりかけていた親友の間に、再び連帯感が蘇った。

加えて、ー種の極限状況に置かれたことで異常なまでに気分を高揚させたい2人は、途中ヒッチハイカーのJDを同乗させると意気揚々とオクラホマに向かった。その頃、バーでの射殺事件を調査中のハル警部は、ウェイトレスの証言から、早くもテルマとルイーズの素性を割り出していた。彼の追求の手が、ルイーズの仕事場から2人の自宅へと及んでいく。ついにテルマの家は調査本部と化してら電話には逆探知気が仕掛けられた。土砂降りの雨の中、Tバードはオクラホマに到着した。驚いたことに、そこでルイーズを待ち受けていたのは、6600ドルの現金を携えたジミー本人だった。さらにその晩、彼のモーテルを訪ねたルイーズに、ジミーは結婚を申し込む。だが逃亡生活を覚悟したいま、プロポーズを受け入れるわけにはいかない。愛しているけど、タイミングが悪いのよ。ルイーズはそう言いつつ、彼と一夜を共にした。

そしてテルマもまた、部屋を訪れたJDとの激しい情事に身を任せた。ベッドの中でJDは、自分が強盗であると告白、寝物語に犯行の手口を語って聞かせる。テルマはそんな彼の武勇伝に、面白がって耳を傾けるのだった。翌朝、モーテルの食堂でジミーと別れたルイーズのテーブルに、頬を紅潮させたテルマが滑り込んできた。JDとの顛末を大はしゃぎでしゃべれてるテルマに、ふと我にかえったルイーズが厳しい視線を投げかける。彼はどうしたの?部屋でシャワーを浴びているわ。その答えに血相を変えて部屋へかけ戻るルイーズ。案の定、JDはジミーが届けた金を持ち逃げしていた。絶望感にとらわれて、ルイーズは泣きわめく。だが、テルマは違った。突然、行動的な女に変貌を遂げた彼女は、テルマを急き立ててスーパーの前に車を横付けさせると、JDの直伝の強盗テクニックを使い、逃走資金の強奪をやってのけたのだ。

しかしその一部始終はビデオカメラに収められ、ハルたち捜査陣の知るところとなった。さらに警察に逮捕されたJDが、2人がメキシコへ向かっていると証言。捜査の網はじりじりと狭まれられた。そのことを電話に出たダリルの様子から察したルイーズは、大胆にもハルと話をし、逃走経路を変更する。ニューメキシコのハイウェイをルイーズとテルマは猛スピードで突っ走った。過去の人生と完全に決別した2人に、もう怖いものはない。その証拠に、1台のパトカーにスピード違反で捕まった時には、巧みな連携プレーで警官を排除し、途中付きまとってきた野蛮なトラッカーに対しては、車に銃弾をぶちこみ、爆発炎上させて報復を成し遂げた。今や彼女たちは正真正銘のアウトロー、3つの州を股にかけたお尋ね者だった。

そして、4つ目の州アリゾナへと向かう途中、テルマは親友の意外な過去を知る。ルイーズには、テキサスで暴行された経験があり、それが今だ彼女の心に深い傷となって残っていたのだ。その告白を聞いて、テルマは、なぜルイーズがメキシコへの最短ルートであるテキサスを経由することを拒んだのか、なぜハーランに対してあれほどまでに強い怒りを抱いたのかを始めて理解するのだった。やがて、Tバードはアリゾナ州グランド・キャニオンにたどり着いた。だが、その景観を目にした途端、テルマとルイーズは警察隊に取り囲まれる。空にはヘリコプターが、背後にはショットガンを携えた20代ものパトカーが。その時テルマはルイーズに行きましょう。それは、かつての彼女からは想像もできない強い決意の言葉だった。たくましく陽に焼けた顔を親友に見せ、ルイーズが答える。本当に?その問いかけに、テルマはキスで応じた。もはや、何も迷う事は無い。ルイーズが力いっぱいアクセルを踏み込んだとき、2人は、さらなる自由に向かって旅立つのである…とがっつり説明するとこんな感じで、平凡な専業主婦とコーヒーショップのウェイトレスの2人の女性が、旅の途中で遭遇した偶発的事件をきっかけに、鮮やかに自己を解放していく過程を描いた正真正銘の大傑作。



いゃ〜、やっぱりこの映画俺大好きだわ。2人が身支度してドライブしに行くときに流れるMartha ReevesのWild Night (Thelma & Louise/Soundtrack Version)がたまらなく映像似合っていて最高すぎる。俺の好きな音楽が結構流れるからスコアも最高。それに、サランドンのスカーフを頭にかぶるファッションとボーイッシュなハツラツ系がやっぱりいいね。その後にポラロイドで記念写真を撮る場面で流れるToni Childsのハウス・オブ・ホープも合うね〜。しかもめちゃくちゃ笑えるのが、2人が事件を起こす(事件は駐車場だが)バーの名前が銀の銃弾って言う所。何が言いたいかと言うと銀の銃弾はシルバーブレット、すなわち唯一狼を撃退できる弾であり、その狼(犯罪者の男)を貫くのは、2人の女性だったって言うオチ。マイケル・マドセン演じるルイーズの恋人が雨に濡れてアーカンソー警察に尋問される場面があるのだが、あのシーンだけ森を潜って雨の描写が映されるのがすごく綺麗だった。てか、なんでわざわざ雨の描写を取り入れたんだろう。

今思えば主演の2人はオスカー女優で、当時88年に既に「偶然の旅行者」で主演女優賞受賞したデイビス、後の95年に夫のティム・ロビンスが監督した「デッドマン・ウォーキング」で受賞することになるサランドン。この2人の圧倒的悪役ぶりが良い。広大なアーカンソー州のハイウェイで、警察に呼び止められて、危機的だったところを、今までリードしていたルイーズが、テルマに(拳銃で脅して警官を)助けてもらうシーンがあるんだけど、その場面がすごく好きだ。しかも、警察官が命乞いして、妻も子供もいるんだと言う所でルイーズが大事に奥さんをしないと私みたいになるわよって言うセリフはパーフェクト。あとあの破廉恥なトラック野郎とのやりとりも印象的。最初は子供のようだったテルマが、徐々に物語の佳境につれて、大人になっていき、保護者的だったルイーズが徐々に安心感を抱けるようになる間柄になる段階も面白いし、頼りになる女性像が互いにあって非常に良かった。ネタバレになるため言えないが、こういった人生のピリオドは憧れる。

自転車乗りのBob Marleyみたいな黒人が現れるシーンで、Johnny Nashのアイ・キャン・シー・クリアリー・ナウもまた良い。クライマックスでルイーズがここどこ?すごく綺麗…グランドキャニオン?と言うシークエンスで、2人のクローズアップと警察官のカット割りの終わり方、そんで静止画…そしてGlenn Freyのパート・オブ・ミー、パート・オブ・ユーが流れるエンディングはマジで泣ける。映画を見終わってこんな素晴らしい作品に出会えたことを感謝したい位の気持ちになるし、本作を通じて、いかに映画の脚本が大切かを知れる。これほどまでにラスト・ジャーニー的な素晴らしい作品はめったにない。完璧だ。自分たちが何者でどこへ向かうのかきっちりわかっている素晴らしい女性像が描かれている。本当に深い感動を呼べる。2人の立場が逆転し、平凡なハウス・ワイフから「俺たちに明日はない」のボニー顔負けのアウトローに変身を遂げたテルマが、ルイーズをリードして残りの旅を突っ走っていくことが、この映画の最大の特徴であり見所だろう。

正直フェミニストなどが強力に騒がれる今の時代より遥か昔の90年代の初期に作られたこの作品は、すでに今の時代に生まれるべくして登場した新鮮な女だけのロードムービーを先取りした映画で、そこにこの作品の画期的な事柄があるんだろうなと改めて思った。まさか「ブレード・ランナー」や「エイリアン」を監督した人が、ここまでスタイリッシュな画作りで女性映画を作り出したのに驚きを隠せない。しかもこの作品の前作は「ブラック・レイン」だったし、大阪の街を舞台にカルチャー・ギャップを乗り越えて結ばれる男の友情をテーマにしていたスコット監督が、今度は女性の絆を描ききっている。しかも女性の本質や女同士の友情といった題材を、まるでアメリカン・ニュー・シネマへのオマージュとも思えるようなドライブ感あふれる映像の中に浮かび上がらせているし、新たな試みに挑戦したんだろうなと思う。この映画見ていくと2人の友情が姉妹的な関係から同胞愛へと変わり、そして最後には性を超越した人間愛へと移り変わっていく点が非常に興味深いと思う。

それにしてもこの作品はロードムービーであるため、旅映画の醍醐味の1つである移動する風景も非常に美しくよかった。特にクライマックスのあのグランドキャニオンの風景は脳裏に焼きつく。この作品はオールロケーションで行われたが、イギリス人であるスコット監督にとってアメリカでロードムービーを撮る事は、1マイルごとに新しい発見の連続だったと答えているように、彼にとってもこの撮影は楽しかったのだと思う。しかし劇中では、そういったアウトサイダーたる監督の視線が、ポイントを通過するたびに新たな展開を見せるテルマとルイーズのキャラクターとぴったり重なり合い、最大限の効果を発揮しているのは一目瞭然だろう。この作品は女性の魅力とともにアメリカ西部の魅力的な光景を余すところなく捉えていると思う。当初、ホリー・ハンターやフランシス・マクドーマンドが候補にあがっていたようだが、後に監督が彼女たち以外の女優は考えられなかった(デイビスとサランドンのこと)と言う位ベスト・キャスティングであると絶賛していた。

加えて、マーティンスコセッシ作品の常連として知られるハーヴェイ・カイテルてが、テルマとルイーズの軌道を追う刑事と言うドラマのサスペンス部分を担う重要な役どころで出演しているのもやはり魅力の1つで、クリストファー・マクドナルドも典型的な男性像で非常に良かった。といってもここに出てくる男性は皆そういう感じである。この映画のすばらしいところは、人間として自由に目覚めていく女性の自立を描いており、女の友情を描いた作品の中での体音楽と映像のセンスの共通が非常に良く、印象づけられた音楽によってさらに水準へと成し遂げられているような気がする。この映画は女性も男性も共感できると思う。ところで、2人の女優の映画の中で着ているファッションが非常にシックスティーズ的でかっこいい。厚手のダンガリーとジーンズ姿のスーザン・サランドン、強調されたウエストと胸元、アメリカンウェアのかっこよさの原点を見るかのようで、なんとも米国的色気のあるファッショナブルなアメリカン女特有のワイルドさが目立っていた。私好みのファッションだ。

ちなみに男性は当時の隠れトレンドの1つだったウェスタンチックでこれまた良い。特にサランドンがかけているレイバンのサングラスも、カールされた髪型も素敵であるし、何といっても、実生活でも40代半ばに差し掛かったスーザン・サランドンは、もはや熟女の貫禄があり、ジーナ・デイビスはまだ30代で、大人の女の端くれと言う立場から、途中で逆転するのがとんでもなくやはり面白いのだ。そして何より面白いのが、どこまでも男を馬鹿にしている映画であると言うこと。というのも、この作品に出てくる男はみんな最低最悪なのだ。テルマの旦那は束縛野郎だし、バーで出会った男はレイプするし、ヒッチハイカーお金を盗むし、品性下劣なトラック野郎、唯一カイテルが演じていた警察官がマシというところだろう…。長々とレビューしたが、この作品はほとんどの人に知られていると思う。しかしながら、まだもし見ていない人がいるならばぜひともお勧めしたい。これは娯楽映画、冒険活劇としては超傑作である。あなたもクライマックスの、ポラロイドで撮った写真が一瞬映るあのシーンを見たら涙が止まらないだろう…あぁ、傑作。
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