すえ

ゆきゆきて、神軍のすえのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
5.0
記録

やっぱり原一男はめちゃくちゃ悪趣味というか性格が悪い、こっちが観たくないところまで全て撮ってしまう。本当に人間の顔がよく見える、現実では表情の機微をこれほど感じ取ることはできない。映像の強みをこれでもかと味わった。

ドキュメンタリーとは元来かくあるべきなのではとさえ思わされるほどのものだった。映像という、その時に撮った対象をそのまま映し出す媒体だからこそ真実がより真実味を増し、強い説得力が生まれる。

ずっと観ていると、カメラを通しているということを忘れそうになった。まるでその場の空気になったようにすっと溶け込んでいる場面があり、自分でも驚いた。反対に、上官を突然訪問し問い詰める際など、カメラの存在を強く意識させられる瞬間も多々あった。
そこで原一男がどれほど奥崎謙三に接近していたかがよく分かる。彼はカメラの存在を意識しているだろうが、それがまるで当たり前のようで常に自然体でいる。奥崎謙三に関しては演技性がとことん排除され、『ゆきゆきて、神軍』に写る彼はありのままの彼自身だったといえる。

正義は個々人にあって、本当の正義だとか悪だとか、絶対的なものはないのは周知の通りだが、戦争はその個人の抱く正義を狂わせてしまう。そうして当時その場で正義だったものが悪に立ち代ったり、悪だったものが正義と称されることもある。何が正しいだとか難しいことは分からないが、戦争が絶対的に正しくないことだけは確か。

とんでもない問題作であると同時に、とんでもない傑作。ドキュメンタリー映画にこれほど心を動かされたのは初めて。忘れてはいけない記録であり、忘れてはいけない現実。

2023,256本目 9/26 VHS
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