雪が降り積もる小さな駅に響く笛の音とともに、流れるオーケストラの音楽と浮かび上がる”鉄道員(ぽっぽや)“の文字。それだけで、なぜか「ああ、これが日本映画だ」と思ってしまう。
雪、小さな駅、鉄道、そして高倉健。これこそ日本映画ではないか…!と思ってしまうほど、高倉健の存在はすごい。
ストーリー自体は何も珍しいものではない。鉄道一筋で生きた、不器用な男の物語である。
しかし乙松演じる高倉健がそこにいるだけで、じわじわと染み入るように涙が出てくる。こんな経験は初めてである。
女の子への優しい言葉使い、妻へのぶっきらぼうな言い方、駅長として駅名を告げる声、全てが観ている者の心に響く。
鉄道員は、”人を運ぶ“ことしかできない。人の感情に入り込んだり、トマムのリゾートのホテルマンのように、お客さんに尽くすこともない。
しかしそのことが、どれだけの人の人生を支えてきたのだろうか。
ただ雪国の中を人を乗せて運ぶ鉄道の姿は、駅で鉄道を迎える乙松の姿に重なる。
こんな日本映画があってよかった。そう思わずにはいられない作品だった。