朝田

上海から来た女の朝田のレビュー・感想・評価

上海から来た女(1947年製作の映画)
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作品が他者によって再編集され続けるという不幸な運命を辿る呪われた天才映画作家ウェルズ。そしてその歪さがむしろ彼のセンスを際立たせるかのごとく輝かせる。この作品に関してもズタズタにされたカット割りがむしろ悪夢的なノワールの陶酔感に誘う。何しろ前半部はトントン拍子で話が展開されていくのだが、明らかに必要なカットが足りてないので因果律をすっ飛ばしてるというか流れがよく解らない。ウェルズで言えば「黒い罠」が分かりやすく感じるくらい錯綜したストーリーテリング。異常な構図の中で立て続けに異常な人物が入り乱れていくもはやリンチっぽさすらあるトリップ感にグラグラしてくる。ザ・ノワールといった感じの濃い影の中で顔の極端なアップが多用され、役者陣の顔の不気味な迫力がスリルを持続させる。とくにウェルズを殺人事件に巻き込むオヤジの目付きのヤバさ。何故かいつも汗だくな上にビール飲んでるだけで怖いのが凄い。あまりに話が掴めなくて飽きてくる感じはあるが。終盤の有名な遊園地での鏡張りの部屋で繰り広げられる銃撃戦はやはり圧倒的な視覚的快楽を与えてくれるが、それ以外にも印象的なシーンは満載。水族館でのカットは圧倒的な美しさと怪しさだし演劇をする中国人たちの表情の切り返しなんかもストーリー的には関係ないのにやたらと記憶に焼き付く。ノワールの、「異世界に突入していく感覚」というのを体現した怪物的な作品。
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