半兵衛

からたち日記の半兵衛のレビュー・感想・評価

からたち日記(1959年製作の映画)
3.7
ある芸者の男に翻弄される苦労に満ちた激動の半生という一歩間違えたら平凡な朝ドラみたいになりかねない女性のドラマを、五所平之助監督&新藤兼人脚本コンビはちょっと詰め込みすぎて所々説明不足になっているきらいはあれど二時間でテンポよく捌きつつも見せ場をしっかりと押さえたベテランらしい丁寧な仕事によって見ごたえのある作品に。またヒロインも運命に翻弄されるメソメソした女性ではなく、結構したたかで勝ち気な女性像なのも生身の人間の息吹を映画にもたらす。

所々でユーモアな場面があるので肩がこらないのもいい塩梅に、主人公を妾にする山形勲は結構な悪党なのに飄々としていてどこか憎めないし、愛する男性の元に駆けつけんとする高千穂ひづるを阻止しようとする山形とのやり取りはシリアスな場面のはずなのに志村けんのコントみたい。高千穂自身もコミカルな所作が上手いのでチャーミングなヒロイン像がハマっていた、特に戦後不良どもに目をつけられ犯されようとするというよくあるシチュエーションを、いきなり男の下半身を蹴りあげフラグをへし折ったのには爆笑。

ベテラン俳優たちが随所に登場して映画を引き締めていくのも印象的。ワンシーンだけなのに安定した演技力で存在感を出す吉川満子や飯田蝶子、いかにも気の弱そうなオーラを醸し出すけれど氷砂糖を食べながらのやり取りが妙に可笑しい織田政雄、我が子と再会したけれど別の亭主と結婚したので微妙な立場にいることを台詞もなしで表現する菅井きん、同じく台詞はないけれどふと見せる優しい動作で主人公と観客を癒やす五月藤江(『亡霊怪猫屋敷』の老婆!)、そして主人公のピンチを助けるいい奴浦辺粂子の繊細な演技、最後の最後に登場してインパクトを与える伊藤雄之助…。

愛する田村高廣と別れ自分の人生を一人で歩もうとする決意する高千穂の、『全力坂』並の下り坂の疾走からの麦踏みと伊藤雄之助のコミカルな組み合わせによるラストが素晴らしくて+0.2追加。

山形勲の、「人に幸せを譲るから自分が不幸になるんだ」という台詞はメロドラマの構図をずばり暴いていてイイね。
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