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シモーヌのtakaoriのレビュー・感想・評価

シモーヌ(2002年製作の映画)
3.9
2023年174本目

いつもながら、アンドリュー・ニコルの先見性は素晴らしい。アル・パチーノ演じるヴィクターは、まさに現代の「バ美肉おじさん」の先取りである。
もちろん、CGででっち上げた女優で世界中を騙し続けることなど、現実には出来るはずもなく、バレるに決まっているのだが、それでも、アル・パチーノが演じるしょぼくれオヤジが必死で「秘密」を守ろうと奮闘する姿は、緊張感もありつつ、コミカルで楽しい。シモーヌよりアルがむしろ可愛い。
同時に、これはインターネット全盛の時代の予告でありながら、俳優やタレントという職業の悲哀を描いた映画でもある。自分で無から作り出したはずのキャラクターがひとり歩きし、コントロールできなくなるということは、すなわち俳優が演じる「フェイクの自分」から逃れられなくなるということ。ヴィクターはこれを、シモーヌを「殺す」ことで解決しようとするが、現実に置き換えて考えると、なぜ芸能人が悲劇的結末を自ら選んでしまいがちなのか、その一端が見える気もする。
あとは、笑ってしまうのは、ヴィクターがシモーヌを「嫌われ者」にしようとしてテレビで「問題発言」を繰り返すシーン。「小学校に射撃練習場を作れ」「オゾン層に穴なんかない」「移民が多すぎる」「タバコはいいものだ」これは、いわゆるリベラルに反発してトランプを支持する、アメリカの貧乏白人の主張そのものではないか。この辺りも先取り的で、その後のアメリカ社会で起こったことを考えると、笑えるが笑えない。
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