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生きものの記録のparkoldiesのレビュー・感想・評価

生きものの記録(1955年製作の映画)
4.5
【狂っているのは私か、それとも狂った世界で何事もなく生きる人間か?】

1955年当時の核に対する恐怖がいかほどのものだったのか、当時を生きた人間ではない自分が知る由もない。しかし核の恐怖は日に日に増しているわけで、この映画から60年以上経った今、これは妙にリアルに感じる。

ベルイマンの『冬の光』が63年、この映画に登場する漁師のヨーナス(マックス・フォン・シドー)は中国の水爆実験のニュースをラジオで聞いて思い悩んだ末に自殺する。この三船演じる老人と非常に似ている。多分ベルイマンも多少なりともこの映画から着想を得ているのだろう。

本当に狂っているのは誰なのか。ラストで精神科医が呟くシーンがあるが、まさにこういうことなのだろう。側から見れば狂った行為だが、口だけで行動しないということと、行動せずにはいられないという人間ではその口にする言葉の重みが全く違う。

そんなジレンマと社会、いや世界全体の恐怖にたった1人で立ち向かった老人と、恐怖だとは言ってもそれを本当に恐怖だと思わない人間、一個人が社会に立ち向かう非力さと無情、そんな様々なメッセージが黒澤独特の重厚感ある物語構成から伝わってくる。

三船の演技力がすごい。ラストの狂人の演技などは他の三船の演技より真に迫るものがあった。
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