青野姦太郎

なみだ川の青野姦太郎のレビュー・感想・評価

なみだ川(1967年製作の映画)
4.8
おしず(藤村志保)が想い人の貞二郎(細川俊之)に呼び出され、二人きりで対面する場面。おしずの体勢が貞二郎にだんだんと正対していくことによって緊張している彼女が心を開いていく様子が示される真横からのフルショットの長回しも見事。しかし、それだけでは終わらない。彼女のあまりにもまっすぐな優しさに貞二郎が気づいたその瞬間、なんとイマジナリーラインを飛び越えて切り返しが始まり、そこにはもはや恋に落ちた男の顔がある。
狭い室内空間に人物が所狭しと埋め込まれる構図が連続する終盤であっても的確にショットが繋がれ、マッチ・カット(日本映画の系譜で言うならば伊藤話術)さえ使用されるほどまでに編集に意識的な本作にあって、理屈を越えた感情を表現するために唯一ルールが破られるその瞬間のなんと美しいことであろうか。