いろどり

ユリシーズの瞳のいろどりのレビュー・感想・評価

ユリシーズの瞳(1995年製作の映画)
4.0
映画愛、祖国愛、祖国を超えたバルカン半島愛を感じる壮大な叙事詩。今回の必要知識は20世紀のバルカン半島の歴史。バルカン半島の地図を見ながら鑑賞した。1ショットのなかに現在と過去が行き来する長回しで、争いと分断を繰り返すバルカン半島を描く。

今回も出てくる巨大なレーニン像。「霧の中の風景」ではレーニンの手だけが出てきた。ギリシャの政治不安を表すかのように、レーニンの指し示す指はヘリコプターに吊られてユラユラと揺れていた。今作では舟で固定したうえでドナウ川を上る。しっかりと方向性が定まっている。社会主義を脱出するかのように。

雪の下から草が芽を出している。
まるで早春のよう。
霧で何も見えない。
風が南から吹いている。
先に行ってしまった。様子を見てきて。

終盤の霧のなかから歩いてくる人たちの会話は、監督の今までの作風に沿って読み解けば、五里霧中のバルカン半島諸国の会話のように聞こえる。

あやまちを繰り返すのは宿命なのか。
監督の厭世観が詰まった美しく悲しい作品だった。
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