みーのカー

ユリシーズの瞳のみーのカーのレビュー・感想・評価

ユリシーズの瞳(1995年製作の映画)
5.0
バルカン半島縦断の旅。どこを切り取っても美しいシーンばかり。
ギリシャ、アルバニア、北マケドニア、ブルガリア、ルーマニア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナをめぐる。動乱の20世紀バルカン史を見ることができる。雪、霧、廃墟などの美しさを映しながら同時に厳しい現実を知らせる。
オデッサからドイツへ、解体された巨大なレーニン像が、ドナウ川を流れていくシーンは特にインパクトある光景。

監督Aがマナキスの少年時代の幻想に入り込んでいる場面での、パーティーのシーンは特に胸が締め付けられる。時は止まらないし、その混乱の中にいる人も立ち止まったりはしない。あの時代を生き延びた人々の強さと深い絶望を感じた。笑顔で写真に写ろうとする母にカメラが近づくにつれ、母が涙ぐんでいるのがわかって辛かった。

終わりの見えない戦争を経験したアンゲロプロスだからか、悲観的だけど、映画監督としての矜持を感じた。「戦争と狂気と死の時代であればこそ、あなたはあのフィルムを現像すべきだ」というセリフなど。

この作品は最初のまなざしの無垢さについて語っているとアンゲロプロスは語っている。
監督Aが霧の中の景色を見ている時、まなざしの無垢さを感じた。でもその後の悲劇で、また振り出しに戻ってしまった。
今も各地で戦争や虐殺が起きている。世界を分断を煽る人々は絶えない。最初のまなざしを持った人々がどうかいなくならないでほしいと思う
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