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BUG/バグのsyuheiのレビュー・感想・評価

BUG/バグ(2007年製作の映画)
4.0
2007年のウィリアム・フリードキン監督作品。フリードキン好きなのにこれまだ観てなかった。

オクラホマ州のド田舎。ウェイトレスとして働くアグネスは、息子を亡くし暴力夫に追われ粗末な安モーテルで暮らしていた。あるとき店の客の紹介でピーターという男を紹介され関係を持つ。かつて軍にいたという彼は身体の中に虫が寄生していると騒ぎ始め、徐々にアグネスも彼の狂気に同調しはじめる…。

劇作品が原作だそうで舞台はモーテルの一室から動かない。暴力夫から逃れたアグネスはピーターというさらにタチの悪い男と出会う。DVでは加害者と被害者が共依存の関係に陥ると聞くがアグネスとピーターが結ぶのは狂気の共依存。2人の会話は第三者には全く意味をなさないが2人のあいだでは成り立つ。

アグネスは子供を失った傷心から、ピーターは(おそらく)軍役時代のトラウマから、存在しないはずの虫を知覚し、悩まされ、共闘する。虫は2人しか見えないため絆はますます強くなり何者も介入できなくなる。終盤、不気味な青い光に包まれた部屋で2人が早口で交わす支離滅裂な会話は圧巻だ。

辛い現実を逃れ、世界を自分の都合のいいように解釈するために生み出されたもの、それがアグネスとピーターにとっての虫だった。この2人ほどの狂気に陥らねば、あるいは精神的疾患に罹らねば、人は虫を見ることはないのだろうか?そうとは限らないのではないか。

9/11テロ、原発事故、為政者の支持・批判・暗殺、コロナ禍、侵略戦争… 災害や事件、パニックが起きる中で、発言や考え方が極端に変化したり凶暴化した人、世界を自分に都合よく解釈させる「BUG/バグ」に蝕まれ戻ってこられなくなった人に、誰もが多少は心当たりがあるのでは。実に怖い映画だった。

https://twitter.com/syuhei/status/1641070982424330241?s=20
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