櫻イミト

グリードの櫻イミトのレビュー・感想・評価

グリード(1924年製作の映画)
3.5
「グリード」は「強欲」の意味。アメリカ映画にリアリズムを確立した有名なサイレント作品。当時としては異例のオール・ロケ撮影。

※シュトロハイム監督の最終ディレクターズカットは4時間24分。だが、公開版は2時間ほど(日本版DVDも同様)で、最も重要なカットのひとつが削除されている。このカットの有無で大きく印象が変わるので復元版(1999)も併せて観ることが必須。

主人公マクティーグ、妻トリナ、友人マーカスの3人が、金に翻弄され転落していく物語。冒頭の金採掘工事現場から前半に渡っては、リアリズムを感じさせる訓話的なヒューマンドラマかなと思いながら観ていた。当時の演劇的手法は抑えられメイクも薄い。ところが後半、妻が金の亡者に変貌しはじめるやいなや加速度をつけて転落が始まり、予想を超えてネガティブに展開していく。この落差の大きさが本作を名作と言わしめている所以だろう。人間を醜さも含めて丸ごと描こうとする強い意志がひしひしと伝わってきた。

しかし一点だけ腑に落ちないところがあった。リアリズムで通しているのに何故か妻の最後が映されない点だ。最も大事なところなのに曖昧な表現で、顛末が判らなかったぐらいだ。絶対そんなはずはないと思い調べてみたら、やはり本来あったものがカットされていた。1999年復元版(オリジナル脚本に沿って650枚以上の未公開スチルを組み込み)にて確認できた最後の姿は相当に無慈悲で、本作が描こうとする本質がこもっている。スタジオによる削除に監督が絶望したのは当然だろう。

※猫と鳥かごのクロスカッティングやパンフォーカスなど、当時としては画期的な映像手法も印象的に使われていた。

※シュトロハイム監督は、D・W・グリフィス(「国民の創生」「イントレランス」)、セシル・B・デミル(「チート」「十誡」)とともにサイレント映画の三大巨匠と呼ばれる。
また、俳優としても異彩を放った。「大いなる幻影」(1937年)でのドイツ人将校役が記憶に残る。監督デビュー前から憎まれ役のドイツ人将校がオハコだったとのこと。
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