チッコーネ

ブロークバック・マウンテンのチッコーネのレビュー・感想・評価

3.7
公開時に映画館で鑑賞した際には「なぜ今、こんなゲイ映画が受けるのか」首を傾げたものだった。
改めて観ると、20年を駆け足で描くテンポの良さで、登場人物の本格的な受難も直接的に描かれることはないため「非常に鑑賞しやすい作品である」ことは確かだと、感心した。

ただ映画史をたどる中で、脇役として登場するゲイにも目を光らせてきた鑑賞者にとっては、懐疑的になるざるを得ない部分もある。思いつくままに挙げてみよう。

・近年の作品であるにも関わらず「隠れゲイであらざるを得なかった」1960年代を、わざわざ舞台にしていること。
・ゲイとしての人生に能動的であろうとするジャックではなく、甘んじて現状を受け入れるだけのイニスを生き永らえさせていること。
・こうした作品が『名作』と認められると『ゲイ=秘密の愛=真の純愛』という刷り込みが改めて刷新されてしまうという危惧。

しかし扇情的な場面を極力排し、激しく惹かれ合う男たちの間に通う真心を描くことに集中した作風が、優れているのは確か。またアジア人監督ならではの静謐で緩やかな感性も、しっかりと反映されているように思う。

また「純愛どころか、選り好みし放題」という現代の飽食ゲイおよびノンケ男女に対する、痛烈な批判が込められている気も。
ノンケサイドから寄せられた『概ね好評』を見ていると、狙いは見事的中している。
その意味では『保守の皮を被った狼』の側面も併せ持つ作品と言えるかもしれない。