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天国の門のodyssのレビュー・感想・評価

天国の門(1980年製作の映画)
3.8
【群衆の美学】

映画会社を倒産に追い込んだ映画だそうですが、たしかに俗受けはしない作品かな、と思いました。でも、面白かった。3時間半が全然長いと感じられませんでした。

この映画は、筋書きを追って見てはいけません。イメージで楽しむのが正解なのです。特に群衆のイメージが、最初から最後まで追求されている。群れの美学、ですね。

立派な個人が強い意志や周到な計画で物事を成し遂げる、という近代的なストーリーはここにはありません。人の群れが動き、その中でなし崩し的に物事は進行し、或いは破滅に向かって突き進んでいく。喩えて言えば高速道路での玉突き衝突のように、この先何がどう動くかは人知では計り得ないのです。

そうした群衆の動きを、あたかも水流をぼうっとして眺めるがごとくに追っていくこと。そうすれば、筋書き勝負の映画とは異なる一種幻想的な、或いは超越的な感銘が得られることは間違いありません。もっともそういうふうに映画を見ることができる人は多くないかも。

もう一つのポイントは、煙。画面の随所に煙がたなびき、充満している。これまた、個人の意志とか行動とかを無化するような茫漠たる画像を生み出すのに寄与しています。

監督のたくらみに身を任せて酔うことでできる人にはお薦めです。
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