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ショコラのWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

ショコラ(2000年製作の映画)
4.4
『アヌークの想い』


この映画を観る度に不思議に感じるのは、とてもリアリティのある過酷な現実とまるでファンタジーばりの夢想的なエピソードとが混在して描かれていることである。

そして全体を通して、この物語はおとぎ話のような語り口調を持ったある女性の語り部の視点で語られている。
この語り部の声(ナレーション)の主こそが、恐らくは成長して大人の女性となったアヌークなのではないだろうか。

あまりに奔放で放浪癖のある母ヴィアンヌとの二人きりの流浪の幼少期はこの映画の中でリアリティをもって描かれているように、アヌークにとって忌むべき辛い体験だったに違いない。
この過酷で孤独な生活を何とかやり過ごすためにアヌークが身につけた習慣が、カンガルーのパントゥーフルや海賊たちといった想像上の友達と戯れる一人遊びだったのだろう。

そんな想像力に溢れた彼女がやがて大人になったとき自らの少女時代を振り返って語った物語が、この「ショコラ」というお話なのではないだろうか。そこには、彼女のユニークなイマジネーションを駆使して紡ぎ出されたファンタジーがたっぷりと塗(まぶ)されていて、だからこそこの映画はとても幻想的で楽しいおとぎ話のような雰囲気を纏っているのではないかと思うのだ。

たとえば、現実にはヴィアンヌが奔放で身持ちが悪く家庭を顧みない母親であったにせよ、美人で魅力的で優しい女性として描写した方がずっと楽しいだろうし、そんな母と恋に落ちる男が実際には浮浪者のような小汚いジプシーの流れ者であったとしても、海賊の船長を思わせるワイルドでセクシーな美青年に仕立てて語った方がおとぎ話には相応しいでしょう?
・・・という様な、苦労を体験しながらも遊び心を失わずに逞しく生きたアヌークの、物語に託された切なる思いがこの映画から伝わってくるように感じられる。


お話のラストパートでは、残ったチザの遺灰を北風に乗せて撒き捨ててしまうヴィアンヌの姿が描かれ、彼女がついにランスケネ村に腰を据える決意をしたことを窺わせる。
と同時にアヌークのイマジナリーフレンドであったカンガルーのパントゥーフルもぴょんぴょん跳びつつ消失してしまい、ようやく寂しさを克服出来たアヌークの晴れやかな成長ぶりになんだかほっこりさせられる。
レノ1世伯爵の記念像もにっこり微笑んで、めでたしめでたし。
よかったね!と祝福したくなるほどきれいに着地するファンタジーに仕立て上げられている。


北風と共にやってきた異邦人が、保守的な共同体に暮らす、禁欲主義的な信仰と因習に縛り付けられた人々の心と情欲を甘いチョコレートで解き放つおとぎ話には、何ともエロティックな魔力がある。

「ショコラ」というタイトルは、現実のほろ苦さとそれをくるみ込む甘いファンタジーの両方を象徴している気がして、とても素敵なネーミングであると思う。
そしてこの意味深なタイトルにこそ、現実とファンタジーの狭間を行き来したアヌークの想いが託されているように思えて観る度に感慨を禁じ得ないのだ。

↓ジョニーがプレイしていたジャンゴ・ラインハルトの「Minor Swing」
https://youtu.be/uTlo809EIlo?si=eQpP8joruOxBmkl2
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