えす

黒い罠のえすのレビュー・感想・評価

黒い罠(1958年製作の映画)
4.2
完全無欠の傑作。カットを割らないこと自体は正直どうでも良くて、流麗なクレーンショットや時限爆弾によって映画的意義のある長回しになっているのが偉い。広角レンズと仰俯角への執着心が、凡庸さとはかけ離れたグラフィカルな画面を構成していく。そこに映し出されるウェルズの巨大な体躯は正しく怪物そのものだ。光の明滅が暴力の発動を予感させ、不穏に鳴り響くジャズがモンタージュのリズムを形成する。ラストで死をカウントダウンするのは秒針ではなく、録音された声と銃声。滴り落ちる血液によって”手を汚すこと“を自覚する。映画を締めるディートリッヒの強烈な顔面が素晴らしい。
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