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風たちの午後のBONのレビュー・感想・評価

風たちの午後(1980年製作の映画)
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矢崎仁司の衝撃のデビュー作。女の子が女の子を好きになる抑圧された恋心。愛が狂気に変わりゆくメランコリックな女の子の肖像。

東京、同じアパートの部屋に住むミツを愛してしまったナツコ。可愛らしいナツコと対照的なミツはクールで、大人びていて、ストレートで、女たらしの彼氏がいる。

彼女を独り占めしたいという欲望が暴走し、ミツの彼氏に同僚を強引に紹介したり、自分の身体を差し出し関係を壊そうとする。彼女への秘めたる愛と執着は更にエスカレートし、衝撃のラストを迎える…。

浮遊するシャボン玉。物干しに吊るされてはためくハンカチ。恋人がいるサイン。ギイギイと鳴るブランコ。いつまでも続く蛇口から漏れる水の音。死んでしまったリス。「ガキを産めないんだ、アタシ。」と寂し気に言うミツ。最初からどこかひび割れていて壊れていた生活。

人生の全てを盲目的な愛に捧げ、愛しい人とのつながりをどうにかして得ようとする必死なナツコの姿は滑稽でみじめで醜くて美しくて憎めなかった。保育士の彼女のふんわりとした雰囲気が余計ほろ苦い。

ミツとナツコ、どちらも私の友達と後輩に顔も雰囲気も似ていて、生身の人間のリアルさを感じて他人のように思えなかった。女と女と男、小声の台詞、音響の使い方、憂鬱で甘美なメロディーの広がった芸術作品だった。

ふと思い出したのがペドロ・アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』(2002)。こちらも本作同様人間の究極の愛の形が描かれており、相手を不幸にするような一方通行の愛はただのエゴだと思っているのだが、愛は悪魔なので止められない…。人間は理性だけでは生きれない。だけどやっぱり怖い。そんな感じ。
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