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宮本武蔵 巌流島の決斗のMASHのレビュー・感想・評価

宮本武蔵 巌流島の決斗(1965年製作の映画)
3.5
宮本武蔵五部作の最後。『一乗寺の決斗』は素晴らしい作品だったものの、当時はお金をかけた割にあまりヒットせず、この5作目は製作中止になりそうだったそうだ。そのため予算は大幅に削減するという条件付きで製作できたものの、やはりどこか締まりのない作品になってしまったと言わざるを得ない。監督のやりたいことは伝わるのだが、どうも全編を通してダラダラしており、最後の決闘のシーンは非常に爆発力が欠ける。

そもそも宮本武蔵と佐々木小次郎の戦いがメインの本作だが、お膳立てが死ぬほど長い。しかも、その割に2人の間の因縁みたいなものが一切感じられないため、ラストも盛り上がりに欠ける。外野がガヤガヤやっている様子を延々と見せられる。それを補うように色んな小話が挟まるのだが、あまり関係ないことがポツポツと繋ぎ合わさっているだけなので、余計にダラダラした印象を受けてしまう。これまでの作品もこういう傾向はあったが、それでも最後にはそれまで貯めていたエネルギーが爆発するような演出が待っていたのだ。しかし、この作品は最後がショボショボしているので、余計に「今までの我慢はなんだったのか」と思わされてしまう。

ただ、最終作ならではの良い部分もちゃんとある。この作品では今までに武蔵が出会ってきたキャラが勢揃いするのだが、これがなんとも言えない気分になる。特に前作で武蔵の手によって視力を失った吉岡道場の門下生が出てくるのだが、彼はその後その場所で地蔵を彫り続けていたということが分かる。武蔵はそれを見て何もいうことができずその場を離れていく。まさしくこのシリーズを象徴したような場面だ。そしてラストで武蔵は血に染まった自身の手を見てこう言うのだ。「剣は所詮武器なり」と。まさしく内田吐夢監督が伝えたかった全てが詰まっているシーンと言えるだろう。

予算がなかった故に締まり切らない作品にはなってしまったが、これはこれでどこかこのシリーズにあった虚しさを象徴しているような気もする。剣の道を極め人の高みを目指していた武蔵が己のやってきたことがただの殺人でしかないことに気づく。その空虚な心を映し出したかのような。正直面白い作品ではない。だが、もし『一乗寺の決斗』まで観たのなら絶対に観るべき作品だ。
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