がぶりえる

十三人の刺客のがぶりえるのレビュー・感想・評価

十三人の刺客(2010年製作の映画)
3.5
面白い。面白いけど、これを見て「黒澤ってやっぱり別格なんだなあ」と思った。

過激描写で観客の怒りを最大限まで引き出す前半から、それを思いっきり発散するかの如く血みどろの戦を繰り広げる後半。ケレン味溢れるアクションと重厚な俳優陣による凄まじい画力の顔の演技は至高。勝算の少ない大博打に命をかけて戦う男達の血と泥にまみれた姿に胸打たれた。

特に松方弘樹が素晴らしい。殺陣のキレが頭一つ抜けてるし、恐ろしく目力が強い。映るだけで画になるカリスマ性が発揮されまくってた。漢だよね。

だが、黒澤は超えられない。決定的に何かが足りないと感じる。人間ドラマの作り方も、演出の妙も、各カットの切れ味も、音楽の使い方も、何もかも黒澤が一枚どころか何枚も上手だと感じた。特に、黒澤映画の動的な演出から生まれる、心が何か燃え滾る様な異様な興奮と熱さがなかった。黒澤明を溺愛する身としてはどうしても黒澤の撮る時代劇が時代劇の基本的な指標になってしまうし、本作は「七人の侍」のプロットもろ借りだから、本家と比べずには見られなかった。

今の時代に、日本映画でもまだこういう企画が立つんだなぁと思った。日本映画は「予算注ぎ込んだ派手な時代劇アクション」という古き良き大衆映画路線はとうに捨てて、「アイドル万歳」路線を突っ走っていってるのだと思っていたから、こういう映画が見れるのは心から嬉しいし、もっと盛んに作ってほしい。