ケンヤム

オール・ザット・ジャズのケンヤムのレビュー・感想・評価

オール・ザット・ジャズ(1979年製作の映画)
5.0
なんて映画だ!
彼にとって死だけが現実だ。
この映画では、最後、唯一の現実であった死さえ虚構にしてしまう。

生と死、ホントとウソなんて、その区分け自体が嘘なのに、その区分けを意識しないと生きていけないのが人間だ。
けれど、アーティストとは変わった生き物でその区分けそのものが窮屈で、うっとおしいから表現でホントとウソの境界を曖昧にしようとする。
ホントとウソを混ぜっ返して、開放感を得ようとする。
私たち鑑賞者も同じで、芸術という嘘を見ることで今生きている窮屈な現実を混ぜっ返そうとしているのだと思う。

この映画には、ボブフォッシー自身が「生と死」そして「現実と虚構」という区分けに向き合った過程が刻み込まれている。
「人生はショーだ」
みたいなありきたりで身体がむず痒くなるような嘘っぱちの言葉でこの映画を語りたくない。
結局ボブフォッシーも普通の人間で、人生をショーそのものだとは思えなかったのではないか。
その証拠に「バイバイ人生」と歌いながらこの映画は終わるではないか。
あの言葉は、死ぬことと生きることをしっかり分けないと出ない言葉だと思う。
「俺は生きたんだ」という誇りみたいなものがないと出ない言葉だと思う。
生きている人は死があるから生きているのだし、死んでいる人は生があるから死んでいるのだ。

なんかなに言ってんのか自分でもわかんなくなってきた。
とにかく「バイバイ人生」と明るく歌いながら俺も死にたい。
終わり。
ケンヤム

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