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そして、私たちは愛に帰るのsyuriのレビュー・感想・評価

そして、私たちは愛に帰る(2007年製作の映画)
4.1
『愛より強く』でベルリン映画祭の金熊賞を取ったトルコ移民のファティ・アキン監督による、「愛・死・悪」三部作の2作目。36歳にして世界三大映画祭すべてで賞を獲得してる俊英らしくアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの『バベル』風。ポールハギスの『クラッシュ』風なヒューマン群像劇を両者に勝るとも劣らない力量で安定感のある語り口と滔滔と流れるように表現する脚本、演出力は若手の監督とは思えない堂々としたもので風格すら感じる作品。

この作品は3つの家族が登場する3つの章で構成されている。アリとネジャト・アクス父子、イェテールとアイタン母子、スザンヌとシャーロット母子の6人が物語の主なキャラクターで、この6人が3つの章の中で互いに関係し合いながら物語は展開してゆく。「愛・死・悪」を各章の転機に孕ませながら。“死”が作品の大きなテーマとなっているが不思議と悲しみがなくむしろ生への躍動に繋がっている作り方は面白い。

2000キロも離れたブレーメン、ハンブルクおよびイスタンブルを主な舞台に計6名の物語である。他人を結ぶ力があることをテーマにしている。深い喪失を越えて繋がれる、人々の絆。三組の親子の物語は密接な繋がりがあるが、それぞれが全くもってすれ違ってばかりで哀しく。それでも生きていく生命力の逞しさ。運命的な出会いと別れを力強く描き出しそれを淡々と俯瞰視させて見せる演出は素晴らしい

また普段見慣れないトルコの生活様式やイスタンブールの町並み等もかなり丁寧に描かれてて好感を持てました。トルコ系の登場人物・民族音楽を使いながら、ドイツ映画らしく無骨で一直線に心象を抉ってくる生真面目な構成。そしてスクリーン上の絵はヨーロッパ的な絵画風の気品のある雰囲気を漂わせ中々の良作でした。
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