ロン・チェイニーの前期主演作。見事な光学特撮が映画史に刻まれている一本。聖書の「聖杯」にまつわる現代劇。監督は「愛の調べ」（1947）などのクラレンス・ブラウン。脚本は後にアメリカにおけるネオナチの始祖となるウィリアム・ダドリー・ペリー。

※ 63分完全版はロストフィルム。現存する33分短縮版は「The Light of Faith（信仰の光）」の題名で学校や教会に広く配布されたもの。

1920年代アメリカ。失恋で家出したベッシーは最後の 1 ドルをはたいて下宿部屋を借りるが心臓発作で倒れてしまう。そこに居合わせたルンペンのトニー（ロン・チェイニー）は彼女を救い看病をするうちに愛情を抱く。ある日ベッシーは新聞で、かつての恋人アッシュが聖書に書かれた伝説の聖杯を発見したというニュースを知る。“聖杯に願えば望みが叶う”という伝説（※再現パートあり）をベッシーから聞いたトニーは、彼女の病気を治そうと聖杯を盗み出すが。。。

ロン・チェイニー主演映画には必ず驚くような見どころが用意されている。その殆どは“千の顔を持つ男”チェイニーの変装ぶりなのだが、本作のチェイニーは素顔で演技に徹している。驚くべき見どころとなるのは照明演出と光学特撮で、その見事さは当時大きな評判を呼んだそう。

窓から光が差し込み、光の中に現れた聖杯が宙を進むシーンは現在視点から見ても目を見張る出来栄え。聖杯の光が人々の顔を明るく照らし出すカットはどのように照明を当てているのか不思議で、まさに光の魔術のよう。

他にも影を使った演出が随所に用いられて面白い。ラストカット、愛するベッシーのために身を引き部屋から出ていったチェイニーのシルエットが曇りガラス越しに映る。出入り口の係員とのちょっとした挨拶をかわす影の動きで、チェイニーが強がって平然を装っているのが伝わってくる。名匠クラレンス・ブラウン監督とチェイニーのコラボが結実した秀逸なラストシーンだった。

前期チェイニーの代表作に数えるべき一本。しかしキリスト教を良く知らない日本ではこの先もソフト化はされなさそうと思われる。

今回、本作を鑑賞するきっかけとなったのがアメリカのネオナチを調べていて知ったウィリアム・ダドリー・ペリーの存在。彼の脚本家としての仕事は本作と、同じくチェイニー主演の「大地震」（1923）のみ。両作とも聖書が絡むストーリーなのが興味深い。彼は1928年に3回幽体離脱を経験し、その模様を著作出版している。そこで彼は神やイエス・キリストに会い「イエスは彼にアメリカの霊的変革に着手するように指示した」と書いている。その後の詳細については「大地震」のレビューに記そうと思う。

※ 63分完全版のフィルムが最近発見されたらしい。そのあらすじを読む限り、良いシーンはこの短縮版に収まっている。