Antaress

8 1/2のAntaressのレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
3.3

この映画、大部分の場面がグイードの空想。
彼の現実逃避の為の空想は妄想となり、妄想は現実を侵蝕して行く…のか?

ブラック・スワンも現実と妄想の境界が分からなくなって行く話だったがグイードの妄想はブラック・スワンのヒロインのそれよりは何だか滑稽。
バレエの真髄を掴むため己を追い込んで追い込んで追い込みまくる前者に対して、グイードは他者(特に女性)にインスピレーションを求めようとする。

バレエのプリマも映画監督も孤高の存在ではあるが、既にある作品を表現するプリマとゼロから作品を産み出す映画監督とではやはり立場が違う。

産みの苦しみにあーでもない、こーでもないともがき苦しむグイード。
保養兼仕事として滞在している地に愛人が来ることを拒みたいのに拒めない。更にそこへ妻まで呼んでしまう。
もうアホかと…

しかしこんなアホな行ないも全て映画作品と言う子供を産む為の策なのである。言わば陣痛誘発剤の様なものだ。


殆どの女性がどぎついメイクなのに反してグイードの妻のルイザだけはほぼノーメイクの様なナチュラルさだ。
それはルイザだけは彼に飾ることのない自分を見せていると言うことなのか?そしてグイードも彼女にだけは全て甘えていると言う暗喩なのか?

ラストでグイードは自らの命を絶ったのか?それならその後のシーンは死んだ彼が見た走馬灯の様なものなのか?
彼を囲む人々の衣装が白いのは天使を表すものなのか?
彼の死はただの妄想で映画は制作されるのか?
グイードが生きていたなら正気を保っていられるのか?

どの様にも解釈出来る終わり方で、やはりブラック・スワンは本作をリスペクトしているのかな?

飄々としたシュールさと乾いた空気感はホドロフスキー作品にも似ていると感じた。
Antaress

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