佐藤克巳

月は上りぬの佐藤克巳のレビュー・感想・評価

月は上りぬ(1955年製作の映画)
5.0
日本を代表する大女優田中絹代監督第一作「恋文」程度と思われたが、想定外の傑作だった。多大な応援を受けた小津安二郎の作品群に遜色無しの出来映えであるだけでなく、小津映画の一部であろう。「宗方姉妹」「麦秋」との三部作だ。北原三枝の溌剌とした次女と奈良で無職の安井昌二、気配りの利いた長男妻山根寿子と大阪で教師の佐野周二、沈着冷静な長女杉葉子と東京で電気技師の三島耕の3組が結婚へ進展するには、周囲の人の一押しが無ければ絶対に成立しなかった。収まるべき鞘に納めなければ、人生がそのものが変わってしまうだろう。そんな深刻な問題をサラリと語って魅せる小津映画の凄まじさと、万葉集の番号を電報の暗号に使う大胆なアイデアと、北原と安井のお節介を超えた悪戯に小津の余裕を感じた。
佐藤克巳

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