Uえい

晩春のUえいのレビュー・感想・評価

晩春(1949年製作の映画)
4.0
「東京物語」が良すぎたので紀子三部作を遡って見はじめた。今作は父娘が中心に据えられ、「東京物語」同様に家族の欠落と、残された家族が離れていく様子が描かれていた。

主人公紀子は、母を失った父の世話をしながら同居していた。紀子は戦時中は体調を崩していたがすっかり快復していた。そして、年齢もあり、周りから結婚の催促が増えていた。

そんな中、叔母からお見合いの話が来る。まだ父と暮らしていたい紀子は悩むが、父から再婚するという言葉を聞き、ショックを受けながらも結婚を決意する。そして、父と、父の友人親娘と最後の京都旅行へ行くのだった。

これまた素晴らしい傑作だった。まず、紀子を演じる原節子の表情が良い。そして、「東京物語」でも登場した笠智衆をはじめとする面々もすごい。調べてみると、小津監督は役者の演技について、一挙手一投足に至るまで完璧に指示していたらしいがそうとは思えない自然さでびっくりする。

そして、おそらく戦争の影響で母が亡くなっている家族が描かれるのだが、母について殆ど語られない事に違和感がある。紀子のエレクトラコンプレックス的な少し異常な父への執着が怖くもあったが、二人だけになってしまった家族なので、結婚して離れ離れになるということは母の存在を消してしまう、忘れてしまうという事に繋がるのを恐れていたのではと思うと同情して身につまされる。結婚相手を全く描かないのも、この家族にフォーカスを当てているから当然だが、潔くて好きな描き方だった。
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