ひたる

ザ・フライのひたるのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・フライ(1986年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ラストの絵面がキツかったが、ストーリーは全体的に切なくて好み。ビジュアルも最終形態以外は観ているうちに慣れてきてちょっと過激なゆるキャラ程度の認識に落ち着いた。CGではなく特殊メイクを用いたことが結果的に時代が変わっても色褪せないリアリティーに繋がっている。

見た目の美しさが損なわれても、変わらず愛することができるか。こういうルッキズムを扱った作品大好き。漫画「明日、私は誰かのカノジョ」1巻の雪のエピソードを連想した。

チンパンジーのテレポート失敗シーンは普通に怖かった。ドアドンからの血ビシャは心臓に悪い。そして命が軽い。ストックが減ったくらいにしか考えてないあたり、マッドサイエンティストの片鱗が出ている。

そして作中で1番引っかかった点は、2人の恋の異常な進展速度。初対面でヒロインの主人公に対する好感度が考えうる限りの最低だったのに現実時間の数分後にはキャッキャウフフしてて薬でも盛ったんか?ってなった。意気投合しました的な回想も特になかったから純粋に困惑。尺が足りないのなら初対面時の好感度を普通にすればよかったと思う。それで付き合ってく中で欠点も見えてきたけどそれでも愛する、みたいな。マジで何で性格が正反対で相性が絶望的に悪いみたいな描写を冒頭にしたんだろう。ノイズでしかない。

ハエ男になることは事前に知っていたから人体実験のシーンは「あーこれ以上見たくない、やめてーー」と喚き散らしながら観た。融合してすぐに醜い姿になると思っていたから一瞬安心したけどその後のことを考えてずしりと気持ちが重くなった。

巷で人間だった頃の遺物を保管する主人公がマッドサイエンティストと言われているのを見たが、自分が同じ立場でもそうするから狂気は感じなかった。だって世界初のミュータントじゃん?後世に残せば色んな研究の役に立つでしょ。それに史実に残りたいし。これは好奇心を満たすためとはいえ、むしろ理性的で人間的な行動に映った。

冒頭で語った切なさの通り、外面のおぞましさと内面の美しさを見事に対比した作品だった、と締め括りたいところだが綺麗事で片付くシンプルな物語ではない。しっかりと利己的な欲望も描かれている。主人公は口ではハエ化の進行をどうすることもできないと言っていたが、最後まで人間に戻る意志を捨ててはいなかった。そして自分から遠ざけることもできた彼女を危険な目に合わせた。最後の意思疎通のチャンスに彼が放った言葉は、私と君とお腹の子ども3人で融合しよう、そしたら一心同体になって幸せになれる、だった。もちろんこれは一緒にいたいという本心もあるが、それよりも人間に戻れる唯一の糸口を諦めてたまるか、という執念から来た言葉のように感じた。我が身大事は悪いことなのか。これをマッドサイエンティストだからと割り切ってよいものか。このような細かな感情の機微をしっかりと目を逸らさず掬いあげた良い作品だった。

「…シテ…コロシテ……」を地で行くラストも良い。今作のビター、というか胸糞?な結末が好きならPCゲームの「魔女の家」もオススメしたい。ノーマルエンドからのTRUE ENDの流れが良い。
ひたる

ひたる