つのつの

ザ・フライのつのつののレビュー・感想・評価

ザ・フライ(1986年製作の映画)
3.8
デビッドクローネンバーグが一貫して語ってきた「痛みを伴う進化を人間が受け入れるか否か」というテーマの集大成的作品。
進化の痛みの側面を描くにあたってクローネンバーグが得意とする「人体の気持ち悪さ」が今作でも健在なのが嬉しい限り。
特に終盤で、ついに主人公が完全にハエなる瞬間に皮膚がボロボロ落ちる演出とか舌を巻きました。

進化を人間が受け入れるのを阻害するのは、愛や憎しみといった人間的感情なのかもしれない。
愛する人やどうしてもぶっ殺したい人ということはすなわち、旧形態への未練が残っているからだ。(ザブルードは、妻の怒りがそのまま身体に影響を及ぼすけれど、彼女に立ちはだかるのもまた彼女を憎む夫だし)
だからクローネンバーグ作品の中で珍しく主人公が進化したまま終わるヴィデオドロームは、主人公が完全に人間性を失っている。
この非常に冷徹な視線がクローネンバーグっぽい。

ちなみに本作の主人公の進化は、オタクが潜在的に持っているマッチョイズムの開花とも取れると思った。
ファッションにも交友にも興味がなかった主人公が初めて恋愛をしたことによって(ここで同時に実験が成功する)彼は生まれて初めて自信を感じる。
進化した後、急に男らしい行為に出始めるのは彼のほとばしる自信によるものに他ならない。
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