Tラモーン

ガメラ3 邪神<イリス>覚醒のTラモーンのレビュー・感想・評価

3.8
久々鑑賞&再レビューを続けます。
この3部作はもともとかなりシリアス路線だけど、一気にダークファンタジーに舵を切ったシリーズ完結作。


レギオンとガメラの戦いの後、3年を経て地球の環境は激変していた。世界各地でギャオスが発見され、その第一人者である長峰(中山忍)は調査に追われていた。そのころ日本の海底探査機が沖ノ鳥島近辺で、海底に横たわる無数のガメラの死体を発見する。また時を同じくして、4年前のガメラとギャオスの戦いにより両親を失った少女・綾奈(前田愛)は古い祠で謎の生物を発見、イリスと名付け育て始める。イリスは彼女のガメラへの憎悪に呼応するかのように巨大な生物へと成長を遂げていくー。


特撮映画ではタブーとされてきた「ヒーローの戦いによる犠牲者」にフォーカスした作品。
序盤で描かれる渋谷でのガメラとギャオスの激しい戦闘により、踏み潰され、爆発に巻き込まれ多くの人々の命が失われるシーンは鮮烈だ。見慣れた渋谷がガメラの火球によって火の海と化す。ギャオス撃退のためとは言え、その戦いによる犠牲の大きさを余すことなく見せつける。
そしてガメラの戦いによって目の前で両親を失った少女の深い悲しみと憎しみ。彼女にとっては、ガメラは人類の味方などとは程遠く、憎悪の対象でしかない。

特撮映画、怪獣映画におけるヒーローの矛盾に容赦なく迫る本作。ガメラは正義なのか悪なのか。倫理観を揺さぶる展開に少年たちはポカーンとしたことだろう。

ダークなストーリーに沿って明かされていくガメラと地球の関係性。マナをエネルギーとして集める"器"であるガメラは地球の意志に沿って戦う、謂わば"地球の守護者"。決して人類の味方ではなく、地球を守るために戦うのだ。


今作も相変わらず怪獣のビジュアルが最高で、ガメラはいよいよ可愛らしさゼロへ。より頭が小さく、牙や甲羅のトゲトゲしさを増したルックスは凶暴な怪獣そのもの。
最初の渋谷のシーンで円盤飛行からビキビキッと手足を出して着地するシーンがカッコイイ、、

そして対するイリス。幼体期からして生理的嫌悪感マックスの気持ち悪さ。これ完全に男性器…。綾奈ちゃんよくあんなん可愛がれるな…。ヌメヌメした不気味な生き物から変貌を遂げた、ギャオスの顔を思わせる鋭利で無機質なロボットようのデザインは、禍々しさと攻撃性を併せ持った美しさがなんとも言えない異彩を放つ。

映像技術が格段に上がった本作ではガメラ、イリス、航空自衛隊の空中戦が見どころ。完全体へと成長したイリスが月夜に飛び上がるシーンの神々しさ。戦闘機との空中戦。そしてそこに現れるガメラと、明日香村から京都へと移動をしながらの空中戦は目が離せない。

京都に降り立ったイリスがガメラの火球を打ち返し、あたり一帯に火の手が上がり、京都大火の中に立つイリスの姿の美しさよ…。ガメラ、イリス、綾奈と炎のエフェクトをバックにそれぞれの横顔がアップになる演出がカッコイイ。

今作でも地上戦の特撮プロレスはこだわりのリアルなセットが光る。最終決戦の京都の街並みと揺れる電線の向こうに巨大な怪獣2体が佇む様は大迫力。
最後にガメラとイリスが死闘を繰り広げる京都駅構内は作り込まれたセットの賜物だろう。

痛々しいまでの死闘が決着を迎えたころ、世界各地から日本へ届く恐ろしい知らせ。地球環境の汚染により、マナを使い果たしてしまった人類の末路。作り手のメッセージを感じずにはいられないダークなラストシーン。
迫る夥しい数のギャオスと迎え撃つガメラ。こんなにカッコイイ「俺たちの戦いはこれからだ!」があるだろうか。


ダークファンタジーな側面の人間ドラマが大幅に増えたことで怪獣映画としてのカタルシスが減ってしまった点については前2作に劣るものの、クオリティの上がった映像と投げかけられたメッセージの強さが強烈な作品だ。

1作目で長峰を演じた中山忍をはじめ、草薙浅黄(藤谷文子)、大迫元警部補(螢雪次朗)などシリーズお馴染みのキャクターが引き続き出てきてくれるのも嬉しいな。


このシリーズ以降、本格的な路線のガメラ映画が撮られてないんだよなあ。庵野の『シン』シリーズもいいけど、今の技術で平成ガメラのリブートも観てみたいな。
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